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外来

脳卒中センターニュース プラーク栓子飛散防止層付き頚動脈ステントの将来は?(医療関係者向け)

頚動脈ステント術(CAS)の最大の問題は術中、術後の末梢塞栓である。この点について、本邦では低率になるように、バルーン、フィルター、などを駆使して各施設大変な努力と工夫をしている。ステント自体についても、ストラットの大きさ・形状・構造に関連した末梢塞栓の発生度を考慮して、個々の症例毎にステントの選択が行われてきている。
最近、ステント留置時にプラークがたとえ破綻しても、プラークからの栓子をその場に抑え込み、飛散しないような飛散防止装置を取り付けたステントが開発されつつある。従来の自己拡張型ステントのストラットそのものに、あるいはステントの内あるいは外側に網状・格子状のネット構造の飛散防止層をとりつけてある。プラーク栓子飛散防止層付き頚動脈ステントとでも呼べばいいのでしょうか。現在まで3つほど学会等で報告されているのでまとめてみた(Fig 1,2,3 Table1)。

1.C-Guard (Inspire MD社)1,2,3,4 (Fig 1, Table1)。

構造

自己拡張型ニチノールステントが基本。6F(2mm外径)、オープンセル。
このニチノールステントのストラットにポリエチレンテレフタレート(PET)製の網を取り付けてある。網の目の大きさは165μmである。

臨床試験

CARENET, PARADIGMの2つの臨床試験が報告されている1,2

CARENET

前向き、多施設、単群研究、無症候性、症候性を含む30例。従来のCAS適応症例となっており、高危険度群に絞られているわけではない。CAS時にDistal filter protection 96.9%、Proximal balloon protection 3.4%が併用された。

主要エンドポイント

30日後の死亡、卒中、心筋梗塞で0%、6か月後で3.6%。
この結果とARCHeR pooled, ARMOUR, BEACH, CABERNET,CREATE, EMPIRE, EPIC, MAVErIC 1+2, MAVErIC International, PRIAMUS,SAPPHIRE, SECURITY, PROFI, ICSSの以前の報告のまとめ(30日 5.72%、6ヵ月 8.09%)と比較し成績良好と報告している2

副次的検討

CAS後48時間以内のMRIのdiffusion imageで、虚血点の出現率(34.6%)と大きさ(平均0.04㎝3)を、他のステントを使用した同施設CAS後の出現率(66.2%)、大きさ(平均0.375cm3)と比較し良好と報告している2

PARADIGM

前向き、悉皆?、単群研究4。この試験では90%以上の無症候性狭窄(34例)、50%以上の症候性狭窄(37例)すべての患者を含む。 主要エンドポイント:48時間後の死亡、卒中、心筋梗塞で0%、30日後でも0%であった。

2.RoadSaver あるいは CASPER (MicroVention-Terumo社)ステント5,6(Fig 2, Table1)

構造

5.2Fr。外側が従来のクローズドセルの自己拡張型ステントで内側に、目の細かい、これもクローズドセルのステントが組まれている。このステントでは内側のステントがプラークの飛散を抑える構造となっている。メッシュの大きさが375~500㎛ (Fig.2)。

臨床試験

CLEAR-ROAD trialが現在進行中である6。2016年か2017年に結果が出てくる。

CLEAR-ROAD

前向き、単群、観察研究。頚動脈内膜剥離術の高危険度患者:100例。
主要エンドポイントは死亡、卒中、心筋梗塞:30日後(試験中)

Gore Carotid stent (WL Gore社)5(Fig 3, Table1)。

構造

内側が従来の自己拡張型オープンセル型で外側にクローズドセルの格子状の網が取り付けてある。このステントでは外側の格子がプラークの飛散を抑える。
格子の目の大きさは500㎛である。他ステントと違っているのは、ステント全体がヘパリン被覆されており、抗血栓性を高める効果を狙っている。2013年と今回の3種類のステント中、最も早く学会報告されている。

臨床試験

Gore SCAFOLD trialであるがその結果が渉猟しえなかった5

Gore SCAFOLD trial

前向き、単群、観察研究。頚動脈内膜剥離術の高危険度群

320症例

無症候性80%以上、症候性50%以上。主要エンドポイントは死亡、卒中、心筋梗塞:30日と31日以降1年までの同側の脳卒中。(結果等、渉猟できていない)。

今まで、MRI, エコーを用いたプラーク診断や、種々の末梢塞栓予防策をこらすことで、不安定プラークに対してもCASの治療成績がずいぶん向上してきている。しかし最も予防困難なものは、ステント留置後数日で起こってくる、プラーク栓子飛散による遅発型の塞栓症がある。筆者も痛い目にあった症例を1例経験しており、このような症例に今回紹介したステントが有効であればと願っている。 3種類が報告されているが、飛散防止のメッシュ、膜、層は各社思い思いの工夫を凝らしている。これからも、改良が加えられてゆくものと思っている。使いやすくかつ予防効果の高いものが選別されてくると考えており、臨床試験の結果を期待して待っているところである。頚動脈では血管内径が大きいのでステント後の再狭窄は起こりにくいのであるが、気になるのは、ステント材料としての異物量が多くなるので、長期間のフォローで再狭窄が増加するのではないか。また不安定プラークには油のような液状の成分が含まれている場合がある。これは新型のステントでも防止できないはずで、液状成分がどの程度の末梢塞栓の原因として残るのかも気になるところである。症例の積み重ねが必要である。

参考・引用資料、文献

  1. Schofer J et al.: A Prospective, Multicenter Study of a Novel Mesh-Covered Carotid Stent The CGuard CARNET Trial: JACC Cardiovasc Interv. 2015 Aug 17;8(9) 1229-1234
  2. Musialek P et al.: The CARNET all-comer trial using the CGuard micronet-covered carotid embolic prevention stent; 6month data. Leipzig interventional course LINC 2015 Exhibit 99.1
  3. http://www.inspiremd.com/en/press-center/inspiremd-announces-positive-twelve-month-follow-up-carenet-trial-data-at-veith-symposium-2015/
  4. Musialek P. et al.: The PARADIGM Study; Euro PCR 2015, 19-22 May, 2015 Paris
  5. Bosier M.: CAS, My favorite stent is…?: CACVS 2014, Paris
  6. Franders Medical Research Program: Clear-Road Trial, Investigation the Efficacy of the RoadSaver Stent: A service of the U.S. National Institutes of Health, Clinical Trials. Gov Identifier: NCT 02529345

文責 滝 和郎

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