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動脈瘤の血栓化と破裂 Part 1(ABC-WIN 2016より)(医療関係者向け)

動脈瘤の血栓化と破裂 Part 1

Flow Diverter(FD)が使用できるようになってきてから動脈瘤の血栓化と破裂の関係をより明確にする必要が出てきた。これは以前のこの脳卒中センターニュースにも記載したが、FDを留置して血栓化し、治癒したと思っていた動脈瘤が突然破裂する症例が出てきたことによる。2016年1月17日から22日に開催されたABC-WIN Seminar (Val dI’sere, France)でもいくつかの演題がこのことについて発表された。かいつまんで紹介する。なお会場で見聞したことの再現なので細かいところでの誤りはご容赦されたい。
発表時に会場で撮影させていただいたスライドをPower Point でFigureとして使用させていただいている。

FD後の出血合併症特に治療後の動脈瘤の破裂

FDの合併症につて、おさらいをしておくと、まず虚血性のものは当然、起こるとして、頭蓋内出血については、FD留置末梢の脳実質への出血(3%)、末梢にある未治療動脈瘤の破裂、治療動脈瘤自体の破裂などが報告されている。また治療動脈瘤の破裂の原因としていろいろな因子が上げられている(Fig.1,2)3,4,5,6。原因としてFDの留置が不完全でFDが留置後移動したや、血流が強すぎてFDの十分な血流抑止効果がなかったというような不十分な血流防止効果による破裂、FDがチェックバルブのようにはたらいて動脈瘤内圧が上昇し破裂、抗凝固薬、抗血小板薬の使用による出血傾向が加味された破裂、そしてFD留置後の瘤内血栓の形成・溶解などの過程で動脈瘤壁の組織破壊の方向への代謝変化に加えて、瘤内血流の再開あるいは血栓内に新生した血管の破綻による破裂などのいろいろな破裂因子が考えられる。現実にはこれらの因子が複雑に絡み合って動脈瘤が破裂するものと考えている(Fig,2.)。
この動脈瘤の血栓化と破裂について2つの興味ある発表があったのでニュースpart1で、まずCognard C et al.の発表を紹介する。

Cognar Cらの報告(Fig.3)

Cognard C et al.のグループのCalviereは2011年に未破裂動脈瘤からの血栓症で脳梗塞を発症したと考えられる10例の未破裂脳動脈瘤症例中9例に瘤内血栓を認めたと発表している1。このうち2例でクモ膜下出血(SAH)が後に発症しており、動脈瘤の血栓化とくも膜下出血が関連していることを指摘している。今回のABC-WIN 2016では、新たに瘤内血栓に関連した動脈瘤破裂症例、5例を報告している
症例1)44才、男性の左後大脳動脈P3の紡錘状動脈瘤(Fig.3-6)。CTAを行ったあと頭痛が持続したため、CTA後3日目にCTが行われ、動脈瘤の部分血栓化を認めている。治療を予定していたところ4日目に動脈瘤が破裂した。破裂前に治療すべきであっただろうかという演者からの会場への質問があった。 症例2)50才、女性、右primitive trigeminal arteryの動脈瘤で、10日間の持続性頭痛があり検査で部分血栓化動脈瘤を認めた(Fig.7-10)。翌日頭痛が悪化、外眼筋麻痺と眼球突出が認められた。脳血管造影で動脈瘤破裂による頚動脈海綿静脈洞瘻を認めたが、動脈瘤内の血栓は認められなくなっていた。瘻はコイルにて塞栓した。
症例3)82才、男性の右中大脳動脈瘤(Fig.11-18)。動脈瘤後部の血栓化で穿通枝梗塞をきたした。第3病日に症状の悪化と瘤後部の増大と動脈瘤後部の梗塞の拡大を認めた。同日のMRIでは動脈瘤後部の増大部分にT2低信号で血栓あるいは再開通を認め?第4病日に動脈瘤が破裂した。破裂前に治療すべきであっただろうかという演者からの質問が会場のエキスパートになされた。
症例4)45才、女性、両側眼動脈部の動脈瘤 (Fig.19-20)。右側の視力障害が出現したのでFlow diverterで治療したところ、5日後に治療側の動脈瘤が破裂した。これはFD留置後の動脈瘤破裂の典型例である。
症例5)54才、女性、左側眼動脈の動脈瘤でくも膜下出血が2か月前にあった(Fig.21-30)。この時には保存的治療で動脈瘤自体は未治療。左眼の視力障害が起こってきたので脳血管造影すると頚部左内頚動脈の解離性狭窄?と動脈瘤の部分血栓を認めた。この症例に解離部にステントを留置し、動脈瘤を閉塞し治療しようとしたところ、ステント留置後に動脈瘤頚部から末梢にかけて血栓が付着、内頚動脈が閉塞した。血圧を上昇させ様子を見ていたところ、術中に動脈瘤が破裂した。

この5症例と最近、かれらが治療の判断に困っている1例の発表があった。
発表の最後のところで、FDや他の原因で血流が変化すると、瘤内の血流停滞がおこり、血栓化がおこるという流れを表したスライドが示された(Fig.29)。この血栓化が動脈瘤の破裂に関連しているので、急速に血栓化した動脈瘤は早めに治療すべきではないかという要旨であった。私見を付け加えると、この血栓形成によって、動脈瘤壁の退行変性がおこり、壁の一部が強く破壊される(Fig.29)。さらに血栓の融解によって一部瘤内に血流が再灌流し、場合によって動脈瘤が破裂する。(また慢性期であれば、血栓内の新生血管が破たんしてこれによる動脈瘤破裂も加味される。)というような機序が考えられる。
血栓化で瘤内の血流が見えなくなっても、血栓というものは不安定なもので、血栓化イコール動脈瘤治癒という見方は、大変危険であることを示している。特に急速な血栓化動脈瘤が、一部再開通するときや、血栓化動脈瘤が増大する場合には、破裂の危険性が高く、追加治療が必要になると考えられる。またとりわけ大型・巨大動脈瘤では起こりやすいのではないかと考えている。

動脈瘤の血栓化と破裂Part 2 では血栓化動脈瘤の縮小、増大についてのChapらの報告を取り上げる予定である。

参考文献・発表)

  1. Calviere L, Viguier A, Da Silva NA Jr, Cognard C, Larrue V.
    Unruptured intracranial aneurysm as a cause of cerebral ischemia.
    Clin Neurol Neurosurg. 2011 Jan: 113 (1):28-33.
  2. Cognard C. et al.
    Acute unruptured aneurysms thrombosis
    ABC-WIN Seminar Val d’Isere, 17-22 January 2016
  3. Iihara K et al.
    Continued growth of and increased symptoms from a thrombosed giant aneurysm of the vertebral artery after complete endovascular occlusion and trapping: the role of vasa vasorum
    Journal of Neurosurgery 2003 vol.98 407-413
  4. Kulscar et al.
    Intra-aneurysmal thrombosis as a possible cause of delayed rupture after flow diversion treatment.
    AJNR 2011 32: 20-25
  5. Nagahiro et al.
    Thrombosed growing giant aneurysms of the vertebral artery: growth mechanism and management
    Journal of Neurosurtery 1995 vol. 82(5): 796-801
  6. Pierot L. et al.
    Flow diverter stents in the treatment of intracranial aneurysms: Where are we?
    Journal of Neuroradiology (2011) 38, 40-46

文責 滝 和郎

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