肛門外科
肛門の病気
肛門の病気は、人間が二足歩行を始めたときからの宿命といえます。お尻の病気だけに人には話しにくく、初期に病院で診断を受ける人も少ない病気です。長く放置しておいて、出血や糜爛、直腸がんなど他の病気で救急入院といったケースもありますので、専門医での早い時期での検査・診断・治療をお勧めします。
痔核とは
肛門の構造は(図1)に示すとおりですが、直腸の粘膜と肛門の皮膚は歯状線が境界となっており、この線より内側にできたものが内痔核であり、外側にできたものは外痔核となります。本体は血管が拡張したもので、いわゆる"できもの"や腫瘍ではありません。
外痔核は時に血栓を形成し、突然、痛くなることがあります。通常では出血はありませんが、時間が経つと血栓が悪化して出血することがあります。小さなものは一週間程度で吸収され痛みは軽減します。急性期の痛みが激しいときは、切開して血栓を除去すれば劇的に改善します。発症後しばらく経ってから来院された方では、切開よりも保存的に座薬で治療した方が楽な場合もあります。
外痔核はジオン注(詳細別)の対象になりませんので、痛みがひどい場合の治療は手術になります。(図2の1)に外痔核の外観を示していますが、見ると肛門周囲に膨らんでいるのがわかります。時間が経つと外痔核の外の皮膚も肥厚し、皮垂といわれる状態になります。(図2の2)は急に血栓ができた状態で、大きく硬く腫れています。通常は激痛を伴います。この状態では切開して、血栓を除去することが望ましいと考えます。(図2の3)では痔核が自然に治って後に、皮膚の肥厚した皮垂のみが残った状態です。
一方、内痔核は歯状線より口側に生じた静脈の拡張です。(図2の4)で見るように肛門の中にあり外からは見えません。痛みが無いことが多いです。しかし、内痔核にも血栓が生じると疼痛や出血を伴うようになります。進んできて大きくなると、排便の刺激で出血したり、肛門の外に出てくるようになります。(表1)の内痔核の分類のように、初期の間は排便時に出血がある程度ですが、進行すると肛門から脱出してくるようになります。脱出したものは手で押し込んでやると肛門の中に戻ります。さらに進行すると、常に外に出っぱなし(図2の5)となり、肛門の中に入らなくなって嵌頓(かんとん)というヘルニアと同じように激痛を伴い、緊急の処置の必要な状況になります。
※内痔核の治療(ジオン注)について
内痔核の治療は最近、硬化療法が大きく進歩し、手術をする機会が減ってきました。以前にも痔に注射する方法はあったのですが、中国の漢方薬「消痔霊」の研究から作成された硫酸アルミニウムカリウム水和物とタンニン酸からなる硬化剤(ジオン、ALTA)の有効率が高く、内痔核だけなら手術はほとんどしなくても治せるようになってきました。以下、ジオンによる治療の概略を示します。(田辺三菱製薬のパンフレットから)
ジオンは万能ではなく、再発に関しては手術療法には敵いません。しかしながら、侵襲が軽度なので繰り返し施行できる利点がありますので、たとえ再発しても再度施行すれば良くなります。何度も再発するときは手術療法の適応となります。また、外痔核と同時に生じている場合はジオンのみでは完治は困難ですから、手術と併用が進められます。痔の治療にはジオン注以外には、手術療法(内痔核結紮切除、皮下外痔核切除、皮垂切除)、凍結療法などがありますが、ほとんどのケースはジオン注のみで対応可能です。
切れ痔(裂孔、慢性肛門潰瘍)
いわゆる切れ痔は、排便のときに肛門管粘膜が損傷することにより、強い痛みと肛門出血を伴う状態です。太い排便時あるいは頻回の下痢により粘膜が傷つくことで起こります。たいていの場合は座薬などの保存的治療で軽快します。しかし、何らかの原因で長く続くと、慢性肛門潰瘍となり疼痛のため排便が困難になることがあります。この場合は、手術で潰瘍を切除し肛門を形成する必要があります。
肛門周囲膿瘍、痔瘻
肛門粘膜には肛門線という粘液を出す腺がありますが、ここに細菌感染を生じると膿瘍(化膿してウミが貯まった状態)となります。この膿瘍のウミが肛門の外(内の場合も)に出る、あるいは病院で切開を受けて外に出した後に、その道がふさがらず、肛門の中と外に道が続いている状態を痔瘻と言います。再感染を生じてウミが出たり、便が出て下着を汚すことがあります。痔瘻は自然に治ることもありますが、大半は手術が必要なものです。できている瘻孔の広がりにより手術の難易度は千差万別ですが、多くは単純な形をしたものが多いので切開解放することで治ります。