12. 脳梗塞の再発は、元から絶たなきゃダメ
―抗凝固薬の話

本ブログの05でアスピリンの話をしましたが、今回は脳梗塞全般の薬(再発予防薬)の話です。
脳梗塞とは、そもそも脳を栄養している血管が血の塊(血栓)によって詰まり(梗塞)、障害が出る病気です。この血栓ができるのには様々な原因があり、それにより薬も異なります。薬を考えるときには脳梗塞の原因となった血栓がどこでできたかが、最も大切になります。昔、「○〇〇は元から絶たなきゃダメ!」という宣伝がありましたが、脳梗塞の薬はまさにこの血栓ができる場所で変わってくるのです。

血液が固まるとは?

我々の体は、けがなどで血管が傷つくと血が止まるようになっています。その際、重要な働きをするのが、血液の一成分である血小板と凝固(ぎょうこ)の働きです。
堤防(血管)が決壊(出血)したときに例えると、真っ先に使う土のうのような役割が血小板です。血管の傷ついた部分に血小板がくっつき、血小板同士が集まってできた塊によって傷口をふさぎます。これだけでは不十分ですので、セメントのような役割をするのが凝固です。塊をより強固なものにして、しっかりと出血を止める働きをします。
この血小板と凝固の働きを調整するのが、以下に述べる脳梗塞の再発予防薬です。

脳梗塞の薬は、大きく分けて2種類

脳梗塞の再発予防薬は、大きく分けて2種類あります。ひとつは心臓そのものや大動脈、頸動脈、脳の血管に問題があって、血小板が固まらないようにするタイプの薬(抗血小板剤)です。もうひとつは心臓の部屋(左心房)の中や足の静脈などに問題があって、静脈の血液の流れが滞ること(うっ滞)による血の塊(凝固)を防止するタイプの薬(抗凝固薬)です。これらを別々に詳しく述べます。

抗血小板剤とは?

動脈硬化のなれの果てに 血管の内側の壁が傷ついたり、血管が細くなったりすると血液の乱流がおこって吹き溜まりのようになり、血小板がお互いくっつき(凝集)、血栓となります。これを防止するのが抗血小板剤で、現在、バイアスピリン、プラビックス、プレタールなどの商品名で処方されています。どの薬にも一長一短があり、実際の服薬にあたっては担当医から説明を聞く必要があります。バイアスピリンについては、当ブログ05のアスピリン(※)の回で述べた通りです。

※バイアスピリンは商品名、アスピリンは成分名です。


上の血管のように血管内が狭くなっていると血液の流れがスムーズではなくなり、血栓の原因となってしまいます。

抗凝固薬とは?

静脈がうっ滞すると、我々の血液には凝固という現象が生じてきます。心房細動という病気で説明すると、心臓のひとつの部屋が一丸となって動かなくなり(細動)、部屋の中に血液のうっ滞が生じ、血液が固まり(凝固し)やすくなります。この塊が血流に乗って、脳の中へ飛んでいき、脳の血管が詰まります。
これを防止するために、血液を凝固させない薬が抗凝固薬です。50年前からあるワーファリンが有名ですが、最近ではプラザキサ、イグザルト、エリキュース、リクシアナといったDOACと呼ばれる新しいタイプの抗凝固も登場しています。
どの薬がいいかは担当医との相談になりますが、注意すべきは少ない量だと安全といって自己判断で薬の量を減らしてしまうこと。基準を下回って服薬すると薬の効果がないばかりでなく、副作用(出血)や逆に塞栓症が増えることがあり(*)、十分に注意が必要です。

*Sakamoto Y et al  Circ J 82:1437-1442, 2018

脳神経外科 川西 昌浩

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