京都市消防局の救急隊と急性期病院の両者が実際の搬送例をもとに、救急対応力の向上をめざす「救急医療懇談会」が9月3日、京都市下京区のリーガロイヤルホテル京都で開催されました。当日は下京消防署14名、南消防署5名、武田病院39名が参加。搬送判断のポイントや相互連携の体制づくりなど多面的なテーマで意見交換が行われました。
冒頭の挨拶で、下京消防署の黒田哲史副所長は、頻発する豪雨災害について触れながら「いつどこで大災害が起こるか分かりません。災害時の救急活動・医療活動、消防と医療機関の連携がますます重要になってきています。本日の懇談会では、実例をもとに消防と医療が相互に意見交換する貴重な機会です。非常に意義があり、今後の救急活動の質向上に繋がるものと期待しています」と懇談会の意義を強調されました。さらには、「救急隊の活動につきましては、今後とも引き続きご指導、ご助言を賜りますように」と、広く協調と理解を求められました。

康生会武田病院の武田純院長は、「当院では毎月400例ほどの救急搬送を受け入れており、対応の質向上を図るために当懇談会は非常に重要と認識しています。毎回、反省点を見出しては逐一改善していくなど、医療質の最大化に努めています」と取り組みを説明しました。
また、宿泊施設が集中する京都駅周辺の特徴に触れながら「市民の救急だけでなく、観光客の救急、なかでもインバウンドの対応が大きな業務となっています。当院では救急を問わず、観光シーズンでは月に200名以上の外国人患者さんを受け入れており、また、救急隊に対しても色々と協力できるような仕組みを考えています。本日は様々な課題が出てくると思いますが、細かく解析して改善に繋げていく、そのような一日になればと思います」と挨拶しました。

続いて、下京日勤機動救急隊の鈴木翔之隊員が「京都市(下京区)の最近の救急統計・救急医療の現状について」と題し報告しました。
鈴木隊員は、「令和3年に年間8万2,000件だったものが、令和4年に1万件以上の増加となる9万8,000件となり、令和5年以降は10万件を突破、このような状況が続いています」とし、近年の状況を説明。ただ、今年については、「9月1日現在で前年比2,630件の減少となり、ここ5年間で初めて減少に転じています。原因はまだ、はっきりとしたデータはありませんが、今後、統計を取りながら判断をしてまいります」と説明しました。
その後、武田病院脳卒中センター・脳神経外科の定政信猛部長が「脳神経外科救急疾患における神経症状の評価:見逃しやすい兆候について」と題し講演しました。
定政部長は、CPSS、KPSSなど現場で用いる病院前脳卒中スケールの特徴に触れながら「脳卒中か脳卒中ではないか、現場で判断できるかどうかは非常に難しいと思います。救急隊が脳卒中以外と判断したが、医療機関で脳卒中の診断となった95例の調査(東京都救急搬送体制調査)では、脳卒中を疑うのは困難だったのが70%以上、脳卒中を疑うべきだったのは13%。95例の疾患内訳は、脳梗塞とTIA(一過性脳虚血発作)で全体の8割ぐらい。とくにTIAは軽微な症状だと見分けるのは難しいだろうと思います」と説明しました。
その後、定政部長は、脳神経疾患の神経所見・見逃しやすい兆候について丁寧に解説。その上で、「色々説明してきましたが、意識障害の精査は蘇生ABCDのD(Disability)となります。切迫した状態ではAirway(気道の確保)、Breathing(人工呼吸)、Circulation(心臓マッサージ)を優先し、それから判断頂ければと思います」と説明しました。
締めくくりに定政部長は、「脳神経疾患は、発症からの時間と早期診断がとても重要であり、症状が良くなっても安心はできません。すぐにストローク・バイパスを入れて血栓回収が出来るようなPSCコア施設に搬送していただければと思います」と語りました。
次に下京消防署が武田病院に搬送となった3症例を紹介。①急性硬膜化血腫(塩小路救急隊:中村みつき隊員)、②低血糖(下京救急隊:飛田剛志隊員、③急性性クモ膜下出血(下京消防隊:崎濱琉花隊員)それぞれのケースについて詳細を説明し、鑑別方法や対応の注意点など多角的に質問すると、脳卒中センター・脳神経外科の笠島一洋医師が各々について丁寧に説明を行いました。
質疑応答では、低血糖症例についての補足として、武田院長は「近年、SGLT2阻害薬が多く処方されるようになりました。この薬剤は、尿に大量のブドウ糖を排泄するため、血糖値が正常、あるいは低値の状態でケトアシドーシス(血液が急激に酸性に傾く代謝異常)に陥ることがあります。本症例のように、肝障害や腎機能低下がある場合には要注意です。最近、このお薬は糖尿病がない心不全や慢性腎臓病(CKD)でも使えるようになったので、今後は血糖低下やケトーシスが増えることが心配です」と注意喚起しました。

その後は懇談会のメインイベントとも言えるフリーの意見交換です。
武田院長は「3月から救急科専従医1名、4月から診療看護師(NP)2名を配備して体制を強化。救急受け入れ増に力を注いでおり、酷暑の7月では救急応召率は97%となりました。救急隊の皆様の印象はどうでしょうか」との質問に対し、下京日勤機動救急隊の鈴木隊員は「その場でのお返事と共に早期に受け入れていただいているので、受け入れ率が上がっていることは肌で感じています」と、日勤帯での印象について語りました。このほか「夜間対応の課題」や「外国人患者の対応」など様々なテーマで意見交換が行われ、議論が深まりました。

閉会にあたり、脳卒中センターの滝和郎センター長は、「救急はプレホスピタルでの迅速でかつ正確な評価が欠かせません。本日、発表された3症例を伺い、救急隊は上手に活動されておられると感じました。一方で、受け入れ先となる当院の体制整備が重要ですが、病院長を先頭に様々な努力をしておりますので、ぜひ安心して搬送していただければと思います。今後とも、救急隊そして我々受け入れ病院が連携を深め、京都の医療の質向上をさらに目指していきたいと思います」と会を締めくくりました。
