06. 健康な毎日を過ごすために大切なこと ―サプリメントの話―

時々、患者さんから「どのようなサプリメントが効きますか」というご質問を受けることがあります。ある医療(行為、薬)が本当に人のために役立つのかどうか考えるときには、エビデンス(根拠、証拠)に基づいているかどうかが重要です。サプリメントについては、どうでしょうか。

医療におけるエビデンス(証拠)とは何ですか?

医学においてエビデンスとは、効果があることを示す科学的根拠のことを言います。ある治療方法が本当に有効かどうかを調べるには、個人の経験談ではなく、科学的に調べることが必要です。例えば私たちが使用する薬の場合、たくさんの人(※1)を対象に、本物の薬と偽の薬を飲むグループに無作為に分けて、その当人がどちらを飲んでいるかわからない状態で結果がどうなったかを比べます。このとき調べる側も、本物の薬なのか偽薬なのかわらかないようにする方法(大規模無作為二重盲検試験と言います)がとられます。偽薬でも、効果の出る人が少なからずあるからです。多くの人ではっきりと差が出て初めて、この薬の効果が科学的に証明されることになります。

(※1)動物などを対象とした試験では意味がありません。

サプリメントのエビデンス(証拠)はありますか?

一般にサプリメントとして販売されているものは、質の高い研究における科学的な根拠がありません。たとえば関節痛に効くというイメージで出回っているグルコサミンやコンドロイチンは、複数の大規模調査を検討していった結果(これをメタ解析と言います)、偽薬と比べて効果がないことがわかっています。この結果は2010年に出ているのですが、事業者からはなかなか公表されることがありません。このように否定的な結果に関する情報が公にならないことを、公表(出版)バイアスと言います。サプリメントは次から次へと新しい商品が出てきますが、大事なのはエビデンスがあるかどうかです。

サプリメントの副作用はありますか?

冗談のような話ですが、肝臓や二日酔いによいとされるウコンは、実は薬物性肝障害の原因の約4分の1を占め第一位となったことがあります。サプリメントや健康食品の副作用、健康被害は枚挙にいとまがなく、国立健康栄養研究所のホームページ(※2)に詳細が述べられていますが、報告されている情報は全てではなく、一部のみであると考えた方が無難です。どのサプリメントにも共通して、副作用として肝障害、アレルギーの可能性があります。

(※2)国立健康栄養研究所のホームページ

サプリメントに対する認識について

現在の日本で通常の食生活をしている方には、サプリメントは必要ありません。例えていうならば、母乳を毎日たっぷり飲んでいる赤ちゃんに『脳の発育によいとされる成分が入っている粉ミルク』をさらに飲ませようとする人はいないはずです。この例えが理解できても、我が身となると不安になり様々な情報に惑わされがちですので、注意が必要です。質の高い医学研究をまとめた2013年の報告では、『サプリメントは慢性疾患や死亡を予防する効果はなく、害の方が多い可能性があります。サプリメントにもうこれ以上お金を使うのはやめましょう』という結論に達しています。健康な毎日を過ごすためには、サプリメントに頼るのではなく、バランスのよい食生活とゆっくりとした運動、読み書き計算(パズルなど)、趣味に打ち込むなどが大切です。

【参考文献】
Zhang W et al ; OARSI recommendations for the management of hip and knee osteoarthritis: part III: Changes in evidence following systematic cumulative update of research published through January 2009.Osteoarthritis Cartilage. 2010;18(4):476-99.
Wandel S et al ; Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis, BMJ, 2010; 341:c4675
Guallar E et al :  Stop Wasting Money on Vitamin and Mineral Supplements. Ann Intern Med. 2013; 159:850–851.

脳神経外科 川西 昌浩

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