18. 多発性骨髄腫

先日、多発性骨髄腫を患われたことを公表された宮川花子さんが話題になりました。
多発性骨髄腫とはどのような病気なのでしょうか。
当院の血液病センター吉田彌太郎顧問に詳しく説明していただきました。

 

多発性骨髄腫とは?

多発性骨髄腫は慢性の血液がんのひとつです。
そもそも我々の血液は、どこで作られているでしょうか。血液は、骨の内部の骨髄と呼ばれるところで作られています。
骨髄ではさまざまな血液の細胞(骨髄細胞)が作られていますが、その骨髄細胞の中に形質細胞という抗体(免疫グロブリン)を造る細胞があります。形質細胞はリンパ球の一種のBリンパ球からできます(図1正常の骨髄からは血液の成分が作られます)。

多発性骨髄腫は、この形質細胞が腫瘍化して骨髄腫細胞と呼ばれる異常な細胞となり、無制限に増殖する病気です。増殖する骨髄腫細胞から造られる単一の免疫グロブリンをMたんぱくと呼びます(図2 上段が正常の骨髄での形質細胞、下段が腫瘍となった形質細胞が増殖しMたんぱくという物質を多量に生産しているところをしめします)。

この病気は高齢者に多いので、高齢化が進む日本では、今後ますます増えてくると予想されています。性別ではやや男性に多い傾向があります。

 

多発性骨髄腫ではどんな症状がありますか?

多発性骨髄腫では、異常な形質細胞(骨髄腫細胞)の増殖による病変と、Mたんぱくの増加で起きる症状とが見られます。
この腫揚は全身の骨髄で起こり、骨を溶かして行く性質があることから、ちょっとしたきっかけで骨が折れ易くなります(病的骨折といいます)。腰痛や背中の痛みなどがおき易いです。
また、骨が溶けて血液に漏れ出ることになるため血液のカルシウムが増加し(高カルシウム血症)、それによる倦怠感、のどの渇き、意識障害なども起き易いです。腎臓にカルシウムが沈着し、腎機能障害も起きて来ます。
また、腫傷化した形質細胞のため、一方では正常の免疫グロブリンが作られなくなり、抗体が十分に出来なくなり、免疫の力が弱くなってきます(免疫不全状態)。その結果 感染症にかかりやすくなります。
もう一方では血球を造る正常の骨髄の働きが抑えられ、貧血や血小板数の減少なども起こります。
これらの多彩な症状や所見はゆっくりと起こり、経過も緩慢に進行します。多発性骨髄腫は慢性の血液がんといわれるゆえんです。

 

多発性骨髄腫がみつかるきっかけは?

腰痛や背中の痛みなどで骨のレントゲン写真をとると、骨病変(病的骨折、溶骨性病変など)から多発性骨髄腫が見つかることがあります。また高タンパク血症、貧血や高カルシウム血症、腎障害(蛋白尿など)、などが健康診断で見つかり、その後のくわしい検査(次項で説明します)で多発性骨髄腫と判明するなど、多発性骨髄腫の発見の仕方はさまざまです。

 

多発性骨髄腫ではどんな検査で診断されますか?

血液検査では、血液の総たんぱくが異常に高く、それに関連した異常(血清BMGの増加)や、高カルシウム血症等がみられます。血清蛋白の性質を血清蛋白

分画法や免疫電気泳動検査でくわしくしらべますと、単一種類の免疫グロブリン(Mたんぱく)が増加していることがわかります。
腎臓の働きにも異常がみられやすいですし、進行した状態では血球の変化(貧血、白血球減少、血小板減少)もみられるようになります。
尿検査では、ベンスジョーンズたんぱくの有無を調べます。このたんぱくはM蛋白に由来するもので、多発性骨髄腫に特徴的です。
骨髄検査は骨髄腫細胞の割合とかその特徴などを調べます。あわせて染色体検査も行うのが普通で、骨髄腫細胞の質的異常を見る方法の一つです。

画像検査では、全身の骨のレントゲン検査(溶骨性変化、病的骨折、骨粗髭症など)を行います。またCT検査(コンピュター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)検査などは、微小な骨病変や骨髄腫細胞の骨髄外への広がりも調べることが出来ます。

 

多発性骨髄腫ではどんな治療をしますか?–大きな光明が

白血病やリンパ腫などの血液腫蕩にくらべますと、多発性骨髄腫の治療法は遅れていました。しかし最近20年余りで、急速に有効な治療薬が相次いで開発され、治療法に大きな光明が見えてきています。

主な薬剤を作用面から説明しましょう。
まず、免疫調整剤といわれるサリドマイドとその誘導剤(レナリドミド、ポナリドミド)は免疫を活性化させて骨髄腫細胞を攻撃するほかに、腫傷に栄養を送る血管がでるのを抑えたりして抗腫蕩効果を発揮します。

むかしは、サリドマイドは吐き気止めとして つわりの妊婦が服用し、赤ちゃんの奇形が起きることで知られていました。
現在でも、サリドマイドやサリドマイドから派生した誘導体の使用に当たっては、厳重な薬の管理のもとで使用することが国際的にも申し合わせが出来ています。

プロテアソーム阻害剤といわれるボルテゾミムは、骨髄腫細胞の増殖に関係する特定分子の働きを抑えることで治療効果がでるもので、標的治療薬と分類されています。
やはり多発性骨髄腫で効く標的治療薬には新規抗体薬の抗CD38抗体(ダラツムマブ)があります。他の治療薬で効き難くなったようなときに劇的な効果を発揮します。これらの薬剤に副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)を適宜に組み合わせる併用療法によって、多発性骨髄腫の余命は以前とは比べられないくらいに着実に伸びて来ています。

 

多発性骨髄腫の日常生活の注意

日和見感染の防止と運動のすすめ
日和見感染の防止多発性骨髄腫では、病気自体がからだの免疫系にかかわるものですし、まして治療中の一定の間はその上に治療のために免疫力が一層落ちてくる時期があります。このような場合には、健康ならば何も影響しない細菌やウイルスなどの感染症がおき易くなります(日和見感染)。ありふれた対策ですが、マスクの着用、こまめな手洗い、うがいなどを心掛けましょう。とくに外出の後では気をつけて下さい。

運動のすすめ
多発性骨髄腫では病気の性質のため骨がもろくなりがちです。そのための努力として筋力をアップし、身体能力の低下を防ぎましょう。始めはゆっくりでよいですから、家庭内での歩行や短距離の外出からスタートし、軽い運動から少しずつ行動範囲を拡げましょう。


血液病センター/血液内科(血液免疫内科)
吉田 彌太郎 顧問

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