28.子どもの腰痛 それ、疲労骨折かもです ひねりに注意

スポーツをしている子どもさん(大学生もふくみます)が2週間以上続く腰痛を訴えた場合、まず考えないといけないのが腰椎の後ろ半分(椎弓と呼ばれる部分)の疲労骨折です。学童期の子どもで一週間以上腰痛が続いた場合、疲労骨折の確率が50%あるともいわれています。第4回のブログで「高齢者が急な腰痛を訴えたら圧迫骨折を考える」と書きました。圧迫骨折は高齢者の背骨の前半分の骨折のことでしたが、今回は成長期の若者に生じる背骨後ろ半分の骨折の話です。


■疲労骨折とは

疲労骨折は、普通なら骨折が生じないような弱い力が、同じ部位に繰り返し加わることで生じる骨折です。 最初は目にはみえないひびからはじまり、徐々にひびが拡大していき、最後ははっきりわかる骨折の状態となります。 スポーツなどで激しいトレーニング(同じ負荷)を繰り返すことが原因で発症し、特に10代の若者に生じることが多いです。マラソン選手の脛の骨に生じることが有名ですが、腰にも同様におこります。野球・サッカー・バスケット・柔道・体操・ハンドボールやバレーなどで発症率が高いといわれています。

■腰椎の疲労骨折?

若年者のスポーツ選手に生じる腰椎の疲労骨折部位は、椎弓と呼ばれる背骨と背筋をつないでいる場所で、5番目の腰椎に頻発します。患者さんの多くは体が硬い(筋肉がのびない)ことが多く、体を反る・捻る動作を反復することで骨盤と背骨の最初のつなぎ目にあたる5番目の腰椎にいつも負担がかかるためです。腰椎の下関節突起といわれる部分の関節面の特徴から、とりわけ捻りには対応しにくい形になっているので、この直上(関節突起間部といわれる場所)に負荷がかかってしまい疲労骨折してしまうのです。

早期の疲労骨折は、単純レントゲンではわかりませんので、病状と症状、MRI(脂肪抑制画像)で判断します。反り返ったときに指をさしていたがっている部位が疲労骨折をしています。また、膝をのばして立っている姿勢から体をかがめて両手を床につかせると、太ももの裏の筋肉(ハムストリング)が硬く指先が床につきません。

■腰椎分離症は腰の疲労骨折の進行状態

早期に発見できれば、練習休止(2か月~3か月)とコルセットで保存的に治すことが可能です。運動休止の期間はMRIやCTをみて判断します。

少し進行してしまった場合(前下側に生じるわずかなひび程度で骨同士はまだつながっている)は、低侵襲の手術(ネジを刺すだけ)で治すことができ、早期の競技復帰が可能です。

進行すると偽関節(完全に隙間ができてしまって、そこでぐらぐらしている)という状態、腰椎分離症になってしまいます。重症になると保存的に治すことは難しく、手術も少し侵襲が大きくなります。

さらに進行すると、骨がずれて背骨自体がすべってしまいます。成人で脊椎手術が必要になるのはたいていこの腰椎分離すべり症で、骨移植やネジなどによる固定が必要になります。

■疲労骨折の治療・予防のかなめ

大事な試合などが直前にあるとなかなかやめられないと思うのですが、疲労骨折を分離症に進行させないためには、競技、練習の中止とコルセットによる腰の固定が必要です。早期であれば一般的には2か月から3か月といわれていますがMRIなどをとってもらい担当医と相談しましょう。再発率は26%と非常に高いので、練習休止中も腰椎以外の筋肉、つまり股関節周囲の筋肉(太ももの前の筋肉や裏の筋肉)のストレッチをやり柔軟性を高めること,体幹筋の等尺性訓練を行うことが必要です。

■疲労骨折には栄養がとても大切です。

骨に良い食材として、カルシウムが豊富な乳製品とこれらの吸収をたかめるサバなどの青魚やきのこ類はもちろんなのですが、もう一つ大切なのが以前私のブログ13でも紹介したように、たんぱく質、それもコラーゲンというタンパク質(骨の半分はたんぱく質からできてます)です。魚、肉(とくに鶏肉)、卵、豆腐、豆製品をたっぷり取り入れましょう。マグネシウムやビタミンDやKも大切なので、ナッツ、納豆、緑黄色野菜、海藻などをしっかりとりましょう。逆にエナジードリンクにはカフェインが含まれており体内から貴重なカルシウムを失うことになりますのでやめましょう。インスタント麺(うどん、ラーメン、焼きそば)、ファストフート、冷凍食品などの加工食品に食品添加物として使われていリン(無機リン)は、カルシウムの吸収をさまたげるので注意しましょう。

■柔軟性の増加と同時にフォームの改善を

前述したように第5腰椎を含めての腰椎はひねりには対応しにくい形になっています。ところが高いパフォーマンスを要求されるアスリートたちは強い力で背筋による急なねじり(ツイスト)を行ってしまいがちです。子どもの腰痛を考える時にヒントになるのが、現代のゴルフスイングの問題点ではないかと私は思っています。現代のゴルフスイングは飛行距離を延ばすために、骨盤の回旋を行わず、背筋によるひねりだけで上半身(肩)をまわすようになってきています(左側)。このスイングだと腰椎に非常に負担がかかってしまいます。腰にやさしいのは、昔からある骨盤も回旋させて打つスイング(右側)です。

腰の疲労骨折を起こす子どもたちには、股関節周囲の筋肉の柔軟性を増加させて腰の伸展負荷を軽減させるとともに、上半身を回旋させるひねりの際には「骨盤ごとまわす」ことを意識させるのが大切です。

ちなみに私はゴルフを全くしません。相談されても腰痛の改善に少しはお役に立てるかもしれませんが、スコアは伸びませんのであしからず。かつてバドミントン選手、今はスキー、サーフィンを楽しんでいます。

 

脳神経外科 川西 昌浩

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