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たけだ通信 No.99 (11月発行)

武田病院グループ専務理事 武田隆司

憂国の年

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【エッセー】
武田病院グループ 専務理事
医療法人財団 康生会 理事長
 武田 隆司

■憂国の年

あの大震災以後も我が国は猛暑や悲劇的な大洪水など多くの試練に見舞われた。
そして気がつけば冬の足音が聞こえて来た。
辛い思い出ばかりのこの一年、最後のコラムくらいは明るい話題で笑い飛ばしたかったのだがそうもいかないようだ。

震災発生から今日までの間、政府行政の対応はお粗末としか表現しようのないものであった。
被災地に行った人から聞く話では、現地の人は皆口を揃えて「何も変わっていない」と語り、国はアテにならないと自分達で立ち上がっているとのことだ。

巷ではソーリもいつしか代わったそうだが、そんな矮小な人達の小競り合いはもはやどうでも良い。

だがこうした間にも原子力村の住人達はしたたかに暗躍していた。
いろいろな情報が錯綜しているので安易なことは書けないが、ここには自分自身が感じたことのみを書すことにする。

まず、節電を呼びかけるCMを乱発していた厚顔ぶりに恐れ入った。
わざわざ上から目線で御指導いただかなくても「国民はいち早く節電に対する意識を高めていますよー!」と叫びたくなったし、「我々も困ってるんです」というようなニュアンスに苛立ちを覚え、流される度にチャンネルを替えるという作業はかなり面倒なものであった。

実際に国民の意識は高く、この不況下でも高額ながら省エネ効果の高い扇風機が飛ぶように売れたという。

なぜ彼らはこのような人に不快感を与えるようなCMを流し続けたのか?
一つには顧客の意見を受け入れることのない特異な体質もあるのだろう。

あの時期、殆どの企業がCM自粛を続けていたためにTV業界は大変な収入減であった。

ここに目を付けた、要は以前から続けて来たマスコミ封印を目的とした投資だったのだ。
原子力はクリーンだというキャンペーンをCMで流し続けてマスコミの発言を押さえ込んだ伝統的なあの手法と何ら変わらない。

TV業界の構造上、彼らにとっての顧客はCMスポンサーであり、視聴者確保はそのための手段に過ぎないという事実を我々は常に忘れてはいけない。
従ってTVの報道に正義や真実を求めるのは、残念ながら正しい考え方ではない。

それはそうと、でもチョット待てよ?
電力会社は被害対策のために公的支援を受けることが決まった。
また、燃料費が嵩むので電力代を上げる(もちろんこれは原発再開に向けての脅しだろう)などと言ってるのにその巨額のCM代はどこから出て来たの?
血税をつぎ込まなければならぬと言っている企業にこんな無駄遣いを許してしまう現政権っていったい何を考えてるの?

こんな中、ソーリは突然TPP参加を宣言した。
最近のソーリ達は失言の連発で器のほどを見抜かれてしまったのを観察して、前車の轍は踏まないと考えたのだろうか?
今度の人は寡黙を演じることで奥深さを演出しているようだ。

あまりにも寡黙なので国民が独自でTPPについて勉強する機会を与えられたのは皮肉なものだ。

もちろん言葉少ないのは演出で、実は色んなことを良くご存知なのかと思ったら、国会答弁で佐藤ゆかり議員の質問に答える際にISD条項を知らなかったことを露呈してしまった。
画像で見る限り、ソーリは佐藤議員の質問内容が全く理解できていない様子であり、このシーンは世の中を驚愕させた。
見ようによってはデキない学生が教師に怒られるコントみたいで失笑はできたが...

そういえばこのソーリ、あの松下政経塾出身だという。
創始者・松下幸之助氏の秘書を長年勤められた江口克彦議員によると、塾の教えには無税国家を目指すというものがあったそうだ。
しかしあろうことか国内では寡黙なソーリはこの不況の中、ハワイで唐突に消費税の引き上げを宣言した。
TV業界がCMスポンサーに頭が上がらないのと同様に、この人は財務省に頭が上がらないようだ。
恩師も草葉の陰で哀しんでおられるだろう...

ところでTPPは自由貿易という言葉が独り歩きしがちなのでモノの輸出入が注目されているが、実際はヒトもサービスもその内容に含まれている。

となれば、もし実行されれば未曾有の円高が続いている日本での就労を目指して、大勢の外国人労働者が流入することは想像に難くない。

TPP参加9カ国における外国労働者比率は、米国16%・豪州27%・シンガポール28%。
これに対して、就労ビザ取得に高いハードルを設けている日本では僅か0.5%に過ぎない。

長期的に少子高齢化が続くであろう日本が、今までの社会保障システム等を維持しようとすれば、移民の受け入れという選択肢も検討しなければならないのかも知れない。

しかし、現時点で国がそうした対策を検討しているとは思えず、強行すればおそらく様々な問題と混乱を招くことであろう。
こうした諸問題に目を瞑って拙速な決断をしてしまっては、現在でさえ10%に手が届きそうな若年者失業率がより悲惨な状況に陥り、現状よりも更なる労働賃金圧縮が引き起こされるのは確実だ。

更に言えばTPPによる実質GDP増大効果は10年間かけて0.54%。年平均では僅かに2695億円という試算が出ている。
つまり殆ど経済効果は期待できないのだ。

これほどまでに日本を混乱に陥れる災いとも言える協約を、国内では誰が何のために異常に焦って進めたいのだろうか?

ズバリ言うと日本の経済界だ。
なぜそんなにズバリと言えるのかと言うと、昨年11月に日本経団連・米倉会長が「外国からの移住者をどんどん奨励すべきだ!」と記者会見で派手にぶち上げているのだから間違いない。

経団連にしてみれば人件費を抑制できる安価な労働力は喉から手が出るほど欲しいものだ。
日本人の雇用創設などは、利益第一主義の彼らの経済観念からすれば全く興味がない話なのだ。

経団連には立派な人もいるのだろうが、最近ではオリンパスや大王製紙、古くはライブドアなどの問題企業も多い。
このような人達に日本の将来を決定されてはたまったものではない。

ソーリはあまりご存じなかったらしい米韓FTAについて、現在韓国々内でも大変な災いを招く「毒素条約」だったと大問題になっている。

具体的には、米韓間のISD条項に於いて韓国に進出した米国企業が当初期待した利益を得られなかった場合、韓国がFTAに違反していなくても米国政府が米国企業の代わりに国際機関に対して韓国を提訴できるという要項が含まれているというのだから驚きだ。

例を挙げると米国の民間医療保険会社が「韓国の公共制度である国民医療保険のせいで営業がうまくいかない」として米国政府に対し韓国を提訴するよう求めることができるということになる。

医療界に関して言えば、まさにここが米国の狙いの一つだろう。
たけだ90号のコラム「SiCKO!」にも書いたが、米国にアンジェラ・ブレイリーという女性がいる。
Forbesにレギュラーで名前が出てくるようなSuperRich-Womanで、医療保険最大手のウェルポイント社CEOを勤めている。その規模は圧倒的で米国人の9人に1人は同社保険に加入しており、加入者数は実に3400万人と言われている。

国民皆保険制度は日本が世界に誇れるシステムであるが、病をお金に換えたい市場原理主義者にとっては非常に面倒な制度である。
彼らにとってTPPはこの牙城を崩す渾身の一撃であることは明白だ。
皆保険制度堅持・社会保障の充実をスローガンに政権奪取を果たした現与党がいかに二枚舌の遣い手、若しくは思慮欠如の団体であるかが今回の参加表明では改めて理解できた。

他国より利益やエネルギーを搾取することを国益と考え、常に世界の覇権を握ろうと画策しているという点で米国と中国には共通点を感じる。
米国の国力が下降線を描き始め、逆に中国の国力が上昇し始めた現在から考えるに、この大国同士が何らかの形でぶつかることは残念な必須事態と言っても過言ではない。

その口火が今回のTPPでありASEAN+3とも思える。

日本に住んでいると実感がないが、我が国は世界的に見ても非常に戦争の経験が少ない平和で幸せな国である。
裏を返せばケンカの仕方を知らない国でもある。
ケンカ番長同士が互いに牽制を始めた現在の状況での立ち振る舞いは非常に重要だ。

頭デッカチのカンリョーが描いたシナリオを二枚舌のセンセーが読み上げるという長年続いてきた、良くも悪くもこの国独特のシステムを抜本的に変革しなければ、近い将来に取り返しのつかない事態が起こるという考えが頭から離れない今日この頃だ。

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