武田病院グループ:保険・医療・福祉のトータルケアを提供する京都の病院

  1. トップ
  2.   >  広報・読み物
  3.   >  たけだ通信

たけだ通信 No.105(8月発行)

武田病院グループ専務理事 武田隆司

Predator

photo_senmu.jpg【エッセー】
武田病院グループ 専務理事
医療法人財団 康生会 理事長
 武田 隆司

■Predator

先日、猛暑の中をツーリングがてら浜松まで足を伸ばした。
もちろんウナギを食すためだ。
...文句なく美味かった。
ウナギ屋さんの知人曰く、本当に美味しい時期は秋から冬とのこと。
どうやら日本最古のキャッチコピーとして有名な平賀源内の偉業は、我々日本人の遺伝子にまで根付いているようだ。

本年6月、国際自然保護連合(IUCN)によりニホンウナギは「絶滅する危険性が高い絶滅危惧種」に指定されレッドリストに掲載された。
ウナギ好きの我々日本人にとっては痛恨のお知らせだ。

欧米を中心とした捕鯨反対狂想曲には真っ向反対意見を掲げる私も、今回は白旗を挙げざるを得ない。
クジラが絶滅の危機に瀕しているのは、かつて化石燃料が生活軸となる以前に欧米諸国が鯨油を得るためだけ(鯨油以外は破棄していた)に乱獲を繰り返したのが原因であることは明白だ。
その歴史から目を背けて、鯨を崇拝した上で命を頂く日本人のクジラとの深い歴史を野蛮人扱いされたくはない。

しかしながら話がウナギとなるとこれは分が悪い。
世界で漁獲されるウナギの実に70%は日本で消費される。
実際にはシラスウナギ漁に関する詳細なデータは殆ど存在しない。
従って日本のシラスウナギ漁が資源の減少にどれほどの影響を与えているのかというデーターも存在しない。

ダム建設や河川のコンクリート化などの人工的環境変化に加えて、自然環境、特にエルニーニョ現象といった海洋環境の変化も大きな要因だろう。
だが毎年大量のシラスウナギが河川に遡上する前に漁獲され、更に産卵に下る親ウナギも大量に漁獲されてきた事実から鑑みても日本の乱獲がウナギ絶滅への道に加担していることを否定は出来ない。
また一足先にIUCNレッドリスト入りを果たし、ワシントン条約により国際取引規制の対象入りを果たした欧州ウナギは、その後も中国の密輸ルートからの日本への輸入が発覚している。
過去にも中国ウナギからは発がん物質や抗菌剤が検出されていることに加え、与えられるエサにも様々な憶測が取りざたされているので可能ならば口に入れるのは避けた方が懸命だとは思うが、ともあれ我々日本人にとってはそれほどの危険を冒してまでも食したい愛すべき食文化なのだろう。
(余談だがウナギの産卵地を世界で初めて特定した東京大学大気海洋研究所チームの世界放浪記「にょろり旅」は個人的に面白かったので興味のある方はお読みください)

漁業活動と漁獲量推移の相関性は、気候変動や環境変化など様々な要因が関与するため単純な年表比較は出来ない。
しかし平成の初めには1000万トンを誇ったと言われる日本の漁獲量が異常に減少しているのは事実である。
これは漁業労働力の減少や排他的経済水域の設定などを加味しても尚異常な減少であり、結果的に日本近海の海洋生物生息量自体が減少していると考えざるを得ない。

宮城県気仙沼や南三陸町沿岸の一部では東日本大震災後にウニが異常発生しているという。
津波で捕食者のカニが減少したり、海底の環境が変化したことが原因と考えられている。
その結果ウニが岩場の海藻を食べ尽す「磯焼け」という現象が広がり、ウニ自身の実入りも悪くなりアワビなど他の海産物への悪影響も懸念されている。

この現象は50年前にワシントン大学動物学ロバート・T・ペイン名誉教授が発表した実験結果に酷似する。
ペイン氏はワシントン州にある海岸の岩場で、来る日も来る日もヒトデを岩から引きはがして1匹残らず海へと放り投げていた。
すると1年も経たないうちに大きな変化が生まれた。
一切手を加えなかった隣の岩場は、当然ながら以前と変わらぬ生物多様性を認め活気に満ちていた。
だがヒトデのみを排除した調査区では、その主な食料になっていたイガイが驚異的に繁殖し、他の種を殆ど何処かへ追いやり、ほぼイガイだけの世界を構築したのだ。
これは少量のわずか1種であっても群衆の安定には欠かせない存在であること。
他の種にネガティブな効果をもたらす捕食者が群衆全体の維持に不可欠なことを世界で初めて証明した実験であった。

つまり食物連鎖の最上位に君臨する頂点捕食者がペイン氏の実験室ではヒトデであり、 今回の気仙沼や南三陸町沿岸ではカニであったということになり、このままでは生物多様性が衰退することが懸念される。
このように食物連鎖を通じて様々な栄養段階の生物へ玉突き現象のように影響が伝わる現象を栄養カスケードと呼ぶ。

一般に上位捕食者ほど個体数は少なく、また自然界ではその少ない上位捕食者が食する量のエサしか捕獲しないためにこの栄養カスケードが上手く機能してきた。
ところが近年、このカスケードの中ではそれほど上位でなかった生物が知識を蓄え武器を手にし、あれよあれよという間に頂点捕食者となってしまった。
更に困ったことには、持って生まれた地位ではなかったために無限に増殖し、必要以上に他の種を食い尽し、更には以前自分よりも上位にいた種を恨みを込めて無意味に殺戮し絶滅に追いやった。
やはり頂点に立つ者には品が必要である。

閑話休題。
個人的感想だが、動物におけるエサ(食料)と現代人におけるカネは似たような意義を持つと思う。
どちらも生きていく上で、それが全てではないにせよ絶対に必要なモノだ。
面白いことに若い頃からエサを与え続けられた動物が狩猟技術を身につけることが出来なくなるように、若い頃から働く(稼ぐ)ことなく大人になった人間の多くはいつまでも他人からカネを与えられるものだと潜在的に考えている点も似ているような気がする。(事情はそれぞれですが)

ところでエサにおける頂点捕食者がヒトならば、カネにおける頂点は何かと考えると...

これは国(官僚)ということになるだろう。

「アベノミクス」と官僚や経済界に囃し立てられて賢者を気取ってる首相だが、多くの国民にとっては増税ばかりの「アベノタックス」でしかない。
この頂点捕食者の底なしの胃袋がやがて国民を食尽す日が来ないかと憂いながら、ウナギを食して去り行く夏を想う今日この頃だ。

前の記事 一覧を見る 次の記事

Copyright © 2014 Takeda Hospital Group. All rights reserved.