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たけだ通信 No.92 (6月発行)

武田病院グループ専務理事 武田隆司

一汁一菜

photo_senmu.jpg【エッセー】
武田病院グループ 専務理事
医療法人財団 康生会 理事長
 武田 隆司

■一汁一菜

最近、日本の食料自給率が問題として取沙汰されるようになった。

背景となるのは世界的規模のインフレによる食料の高騰だ。
これにはさまざまな背景がある。

まずはBRICsを始めとする途上国の経済拡大による富裕層の増加と、それに伴う食文化の変化。
更には原油高に対抗すべく打ち出されたバイオエタノール燃料の普及増大による穀物需要の急増。
地球温暖化現象が原因とされている、食料輸出大国・豪州南東部での干ばつによる農作物の壊滅的な凶作など。
またサブプライムローン問題による株式市場の暴落から引き上げられた資金の投資先として、原油や穀物などの商品相場にスポットが当てられ、マネーゲームの対象となったことなども引き金となっている。

食文化に関して言えば、私が子供の頃は「日本人は魚を生で食べる野蛮な国民だ」などと揶揄された時代があったものだが、現在は健康食としての「SUSHI」は世界的に普及しており、海産物価格は軒並み高騰している。

また最近では、日本の食品は安全なものとしてブランド化しており、築地市場では中国人バイヤーに日本が買い負けるといった事態も起きている。

一般に、途上国と比較すると先進国の蛋白摂取は動物性比率が高いとされている。

これは自然に考えれば、富める者の方が肉食を嗜好する傾向が高いと考えてよいだろう。

食物連鎖のような関連を思い浮かべれば良いかもしれない。

事実中国では、以前には普及していなかった乳製品の需要が急速に伸びており、一人当たり牛乳消費量は2001年の2.2kgから2005年には8.8kgと、4年間で4倍の増加を見せている。

2007年1月から10月までの中国のチーズとカード(凝乳)輸入額は前年35%増えており、これは2000年と比較すると実に11倍もの増加となる。
参考までに1997年、北京に第1号店を出したピザハットは10年経過した現在、上海・広州など50都市170店舗へと拡大している。

あまり知られていない話だが、現在世界における放牧地の殆ど全てが最大限に使用され、場所によっては過放牧のために生産が落ちている。
このため、牛肉生産量の急速な伸びには既に終止符が打たれている。
放牧地の能力が限界に達している以上、今後も肉食用家畜の生産量を増加しようとすれば、畜舎を増やす以外に方法はない。
しかし、そこでは膨大な穀物が消費されることとなる。

穀物消費の換算方法には、穀物を人間が直接食する直接消費と、穀物を家畜に食べさせて、その家畜を人間が食する間接消費があるのをご存知だろうか。

間接消費をベースとした肉食という行為は、穀物を直接消費するのに較べて極めて効率が悪い。 通常、食肉で穀物と同じカロリーを得ようとすれば6~7倍の穀物が必要とされている。

つまり、間接消費では6~7kcalの穀物を使って1kcalの食肉が生産されるのだ。

こう考えると、人類の肉食化傾向は地上のエネルギー効率を膨大に負の方向へ走らせているのだということがわかる。

私の生まれた1965年、日本の食料自給率はカロリーベース73%であったのに対して、現在は40%に落ち込んでいる。

もちろん、日本も発展途上の間に食生活の洋食化による畜産物消費量や、小麦・砂糖の消費量増加が生じたことも大きな要因だ。

しかし、それ以上に、毎度のように誰も責任を取らない政府高官の愚策、日本の自然環境と生態系を破滅に追いやった悪名高き減反政策が主犯であるのは間違いない。
しかし、これについては触れるも虚しいので放っておく。

言うまでもなく現在の日本は経済大国である。
(数字上は)

故に現時点では経済的優位から、輸入に頼った生活が可能となっている。
しかし、既に先述のように海外諸国との買い付け競争でも負けが始まっている。
また、豪州での凶作のような事態が地球環境の変化が主因であるのだとしたら、これは一時的でなく恒常的に起こり得る可能性もあり、その場合食料価格は継続的に高騰するだろう。

これはもちろん日本だけが抱える問題ではない。
しかし賢明な諸外国はもう既に先手を打ち始めている。
欧州連合(EU)の欧州委員会は小麦や大麦などの減反政策を完全に撤廃する方針を固めた。
また穀物類の輸入関税を一律でゼロに据え置く措置も2009年まで延長する。
EU域内での供給量の確保に動くとともに、主要国首脳会議(洞爺湖サミット)で生産国に輸出規制の是正を求めるとのことだ。

中国や中東産油国の動きも素早く、食料安全保障を目的として、海外での農地取得を積極化させている。

中国政府はこれまで国営銀行や石油会社の海外投資を積極支援してきたが、農業部門の海外投資は小規模プロジェクトに留まっていた。
しかし、近年は米よりも小麦や肉類の消費が増え、小麦や飼料用作物の輸入が増え続けている。

中国の人口(世界人口の21%)や農業人口(世界の40%)に比べ、耕作可能な農地面積は全世界の9%にすぎない。
中国農業省は食料安全保障を目的として海外での農地取得計画を立案し、中国の農業関連企業はアフリカや南米で農地取得に乗り出す。

今後は大豆、バナナ、野菜、食料油生産用の穀物などを栽培するため、農地取得に対する集中的な支援が行われる見通しで、現在は大豆産出国のブラジルとも交渉中とのことだ。

また石油資源は豊富だが、食糧の生産環境が劣悪な中東と北アフリカの産油国も海外に食糧基地の建設を進めている。
リビアはウクライナと小麦耕作地の取得交渉を進めており、サウジアラビアも農業、畜産業の海外投資を進める計画を明らかにした。

完全に食料争奪戦でも出遅れの感が否めない日本。

政党間の悪口合戦はほどほどにして、真剣に国益を考える政治の到来を願ってやまない。

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