武田病院グループ:保険・医療・福祉のトータルケアを提供する京都の病院

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たけだ通信 No.92 (6月発行)

武田病院グループ会長 武田隆男

変えざるもの

photo_kaicho.jpg【エッセー】
武田病院グループ 会長
 武田 隆男

■変えざるもの

日本の医療は、医師の能力や自己研鑚、看護師やコ・メディカルの皆さんの献身的な職責の遂行や先進医療の導入などの経営努力もあり、先進国の中で特別に低い医療費にもかかわらず、世界最高レベルの平均寿命と周産期死亡率の低さを誇っています。特に、WHOによる調査(2000年度)によりますと、「健康達成度」や「健康寿命」の部門で世界一となっているのをはじめ、OECDの調査(2005年度)でも、健康寿命達成度の総合評価は第1位となっています。これに対して、高負担低福祉を地で行くアメリカは、健康達成度15位、健康寿命は24位というのですから、日本の相互扶助の精神にささえられた医療の水準の高さは世界に誇れるものなのです。

ただ、残念ながら国の施策は、「日本の医療は高額の割に非効率的である」という偏見的な意見のもとに医療費削減が叫ばれ、政府も行政も医療よりも道路に我々の税金をつかうべきだと考えて、診療報酬をどんどんと減額し続けています。病院へのアクセスを良くするということですが、病院が疲弊してしまったら意味のないことです。その愚行による他への弊害は計り知れないものがあります。

例えば、慢性的な医師や看護師不足の問題がその1つです。京都、滋賀は3つの医学大学を有することで比較的恵まれた環境にあります。それでも、大学の医局は、出向医師を大学に帰らすことが現実に行われています。大学は、大学病院での診療医や研究をする医師が減少したこともあり、中小病院など1科1医師の科をやめて、大病院への医師の集約化を図っているのですが、急速に地域の医療体制が機能しなくなったり、病院の過疎化に悩む都市さえ出てきています。

他にも昨年から新聞紙上をにぎわせている、救急搬送の受け入れ先が見つからず、高齢の患者さんの死亡や妊婦のタライ回しといったことが社会問題になっています。また、度重なる医療制度改革による診療報酬削減により経営危機にたたされている病院が増えているといわれています。この様なことは、低医療政策の影響であることは明らかです。

近年、こういった弱体化した病院を禿鷹ファンドが狙い撃ちし、医療の質の低下を招いていることも事実ですし、病院経営の市場化を推し進めようとする一部勢力の圧力による国の施策の弊害が見え隠れします。

こうした中、今年4月から「後期高齢者医療制度」がスタートしました。ネーミングが悪すぎるということで、「長寿者医療制度」と変更することや、制度そのものの一部見直しが行われるようですが、超高齢化社会の到来が近い将来に見えている以上、高齢者医療そのものの在り方について、何らかの具体的方策がなければならないのは仕方のないところです。

今回の医療制度改革は、全ての後期高齢者に保険料の負担を求め、しかも「年金天引き」で保険料を徴収するというのです。従来、75歳以上の高齢者は、保険料の滞納により保険証を取り上げられることはなかったのですが、今回、滞納者は保険証を取り上げられ、短期保険証、資格証明書を発行するというのですから、何か江戸時代の悪代官による年貢米の召し上げといった感がしないでもありません。

それよりも、議席減少に一喜一憂する政治姿勢から脱却しなければなりません。選挙不人気を逃れるために消費税を上げないとしているのは、目先のことだけを考えているとしかうつりません。財政の健全化には消費税に頼ることは、絶対に必要であります。ごまかさないで、思い切って消費税率を引き上げることにより、医療・福祉の特別財源、あるいは、今、問題の道路特定財源の一般財源化を急ぎ、後期高齢者医療費に割り当てるようにすれば、国民の不公平感が少しは緩和されるかも知れません。

いずれにしましても、武田病院グループでは、理事長が機会あるごとに次のことを述べております。高齢者の方々を医療難民にすることは有り得ない。"思いやりの心"の医療を推進し続けること。そして、常に誇りをもって仕事に励むことのできる環境づくりに心がけること。このことは、皆さんの肝に銘じられていると思います。

財政主導の思いやりの乏しい医療政策により、病院経営はますます厳しくなりつつあります。しかしながら、我がグループにおける医療・福祉は思いやる心に満たされています。職員の皆様の他人に対する思いやりや優しさといった心を常に養おうとする努力のおかげと感謝いたしています。今、政治でも行政でも教育でも、人に対する愛が欠乏しているように思えます。財政優先や保身主義が横行しているように思えます。このような政策は長くは続かないと思いますが、我がグループにおきましては、思いやりの心をこれまでに増して養い、地域医療・福祉に更に貢献していただくよう期待いたします。

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