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たけだ通信 No.95 (8月発行)

武田病院グループ会長 武田隆男

厳しい医療制度の中で

photo_kaicho.jpg【エッセー】
武田病院グループ 会長
 武田 隆男

■厳しい医療制度の中で

医療界冬の時代と医療制度の不透明さが言われ続けて久しくなります。特に、2006年頃からは、一層厳しくなってきました。
医療の規制緩和、なし崩し的に行われた医療の自由化と自己負担率の引き上げ等により健康保険制度の恩恵が薄れ、収入や年齢、地域による医療格差が増し、日本人の美徳である相互扶助に支えられてきた医療制度が、国の財源重視の医療費抑制策によりほころびかけています。

医療費削減のために、診療抑制策が強化されています。例えば、回復期リハビリなどは症状より期間を重視するため、入院治療が充分にほどこされないことも多々あり、充分な入院治療を受ければ回復可能な患者さんが放置され、医療難民や介護難民と呼ばれる言葉さえ生まれています。また、自己負担率の切り上げにより、所得の低い者は、受診を抑制することになり、このため治療の遅れによる重症化の傾向があるとも言われています。

後期高齢者医療制度が2008年よりスタートしましたが、ネーミングもさることながら、高齢者いじめとして、国民から強い批判を浴びました。その後、国が保険料軽減などの改善策を行ったこともあり、後期高齢者医療制度の批判は当初に比べて少しは収まりましたが、財政力の弱い健保組合は前期高齢者納付金や後期高齢者支援金が負担となり、解散を余儀なくなれるなど、その影響ははかりしれません。

当初、三方一両損を建前として、構造改革が行われてましたが、医療制度改革に限っては、損をしたのは、国民と医療従事者の二者のみで、国は一方得となっています。国は医療費を抑えることにより、財源を守ろうとしています。ところが、日本の医療費は、2005年のデータですが、OECD加盟30カ国中、22位です。先進国の中では最低の医療費で最高の医療を提供していることになります。何とか、財源を確保し、質の高い医療提供を推し進める政策が肝要なのではないでしょうか。

今、ほころびかけた医療制度の見直しが叫ばれていますが、医療の現場や健康への不安を熟知した政治家や官僚や学者達により充分に議論し、国民が安心できる制度へと導いて欲しいものです。

心ない医療制度のもと、より質の高い医療サービスを提供するため、職員のやる気を鼓舞することも大切と思います。思いやり溢れる職場であることは分かっていますが、思いつくままに羅列してみますので、各自の立場で今一度、チェックしてみてください。

 * 挨拶は相手の目を見て笑顔で交わされているでしょうか。
 * 上司が活動に協力してくれているでしょうか。
 * 部下を信じて仕事が託されているでしょうか。
 * リーダーシップは備わっているでしょうか。
 * 部下を主役に引き立てているでしょうか。
 * 感動を分かち合えることができるでしょうか。
 * 職員一人ひとりが志を一つにして自発的に動く組織となっているでしょうか。

まだまだありますが、このようなことが満たされていれば、帰属意識が高まり、責任感や使命感、貢献感が自ずと芽生えてきます。

今、医療従事者、特に医師は、ノーブレスオブリージュ(高貴な身分には社会的責任と義務が伴う)の精神で地域医療に従事しています。このノーブレスオブリージュは日本古来の武士道とは、「君に忠、親に孝、自らを節すること厳しく、下位の者に仁慈を以ってし、敵には憐れみをかけ、私欲を忌み、公正を尊び、富貴よりも名誉を以って貴しとなる」、ひいては「家名の存続」という儒教的態度が底流にあります。また、武士道は、江戸時代に武士が官僚になってからも、脈々と続き、農業は勿論、商業、職人の生き方の考え方の中心となり、日本人の倫理として不可欠となりました。

私共は、今こそ先達の築いてきた倫理観を呼び起こし、21世紀の社会を、そして医療の道を再構築していくべきではないでしょうか。

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