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たけだ通信 No.97 (9月発行)

武田病院グループ専務理事 武田隆司

Water Planet

photo_senmu.jpg【エッセー】
武田病院グループ 専務理事
医療法人財団 康生会 理事長
 武田 隆司

■Water Planet

暑いを通り越して、もう「熱いっ!」と叫びたくなるようなこの夏であった。
こうした折、私事ながら猛暑の中でバイクに乗っていた際にソフト熱中症のデビューまで果たしてしまった。2010年・盛夏の淡い想い出だ。

日本の熱帯化は確実に進んでいる。
陸上・海中問わず生物の生息域が毎年北上しているとの報告がある。
オホーツク海では冬の代名詞である流氷の数が年々減少している。

ところで私が幼少の頃、石油価格が高騰するという懸念から、まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」的な連想話で日本中のトイレットペーパーが争奪戦になるという不思議な光景がテレビで映し出されていた。
昨年、世界の投機マネーが原油価格を高騰させた際には、ほんの数円安い郊外のガスステーションが大混雑になったりした。

そして今年に入り原油に関する事故が続いている。

商船三井が世界の大動脈・ホルムズ海峡でタンカー襲撃に遭った際には「日本の国防はどうなっているんだ?」と拳を握り締めてしまったし、メキシコ湾で未だ収束していない原油流出事故が起これば「英国BP社(純資産21兆円)は利益を全て環境保護に還元せよ!」と青筋を立ててしまう。(ダイバーの端くれとして本当に憂えています...)

要は不安なのだ。

なぜならば、ピークオイルは既に2007年に過ぎており今後の原油生産量は減り続けると考えられている。そして日本は化石エネルギーに限らず食料を始め多くのモノを輸入に頼っている非資源国なのだ。

しかしそんな日本にも世界中が羨む資源があることをご存知だろうか?

私が幼少時の日本では「水と安全はタダ」という言葉が良く使われた。

安全度は世界的に見ればまだ高いものの、犯罪の凶悪化・多様化により当時とは比較にならないほど危険度が増しているのも事実であり、タダと言うのは意見が分かれるところであろう。
しかし、水(飲料水)に関しては日本はまだまだタダみたいなものだ...

だが近年、世界では水を取りまく環境が大きく変貌している。

前述の如く地球環境はめまぐるしく変化している。
こうした環境変化は降雨量にも大きく影響し、水循環のバランスが崩れ始めている。
水の少ない地域では渇水となり、多い地域では洪水になる傾向が続いている。

2007年に行われたメルボルン世界水泳では水不足のために開催が危ぶまれたことは記憶に新しいし、今年に入ってパキスタン・中国・ポーランド・北朝鮮など大水害に見舞われた地域は枚挙に暇がない。

大水害による大量の雨水は貯水されることなく被害を生むだけで流れ去り、また海水を呼び込むことにより塩害による二次災害を来たすため、水不足をより深刻化させる傾向がある。

現在、世界には約5億人もの人々が水不足に苦しんでいるという。

この「水の惑星」における水のうち淡水は僅か2.5%で、そのうち人間が利用できる河水・湖水・浅層地下水は地球全体の水のうち僅か0.01%でしかない。
我々日本人が、自分達がいかに水に恵まれて生活しているかということを理解できないのはその奇跡的な環境によると思われる。

この島国は周囲を海に囲まれており、絶えず湿気を帯びた風が吹き込んで来る。
その風は沢山の山々にぶつかり雨をもたらすこととなり、その雨水は川や地下水脈を満たしてくれる。
こうした恵まれた環境下にあることに加えて、いやそれ以上に我国には陸地で隣接する外国が存在しないため、全ての河川を流れる水が自国の水として利用できるという事実が非常に大きな意味を持っているのだ。

国際河川問題では常に上流河川を有する国が圧倒的な優位を誇ることとなる。
中国がチベット侵略に対して執拗にこだわる理由はここにある。
パンダやレアアースの略奪だけが目的ではないのだ。

今春、中国がチベットに巨大ダムの建設を計画していることが発覚した。
このプラマプトラ川はヒマラヤ山脈北部を源流とし、中国のチベット自治区・ブータン・印度を抜け、バングラデシュでガンジス川に合流する国際河川である。そのため下流に位置する印度国内では非難の声が高まっている。

既に中国はメコン川本流にいくつもの大型ダムを建設している。
メコン川はチベット高地から流れ出ており、タイ・ベトナム・ラオスなど実に6カ国もの国の生活を支えてきた母なる川だ。
結果としてこれら下流の国々では穀物生産量・漁獲量などで大きなダメージを受けており、今後この問題に大国・印度が加わるとなると重要な国際問題に発展する可能性もあり、我々も対岸の火事と傍観しているわけにはいかないのかも知れない。

ところで、日本人の約7割が水道水を殆ど飲まないという調査結果が出ている。
余り知られていないことだが、日本の水道水には50を超える水質基準項目があり、これは販売されているボトル水の3倍近い項目数であり、つまり安全基準は非常に高い。
しかしこの安全基準の観点から一定量の塩素が含まれるために味が落ちるとされている。こうした意見に対して、最近では東京都や大阪市を中心に50もの自治体が塩素処理前の水道水を詰めたボトル水の販売を開始しており好評を得ている。
ペットボトルによる環境問題はさておいて、地産地消という観点からは悪くない動きだと思うし、これを国家戦略として海外販売するという手法もあって良いのではないかと個人的には思っている。

さて、ここまで読んでもまだ水問題の深刻さを感じない人は多いのではなかろうか?
なぜなら日本は上流河川の国だから...

本当だろうか?

日本は政治的にほぼ無策な国なので、食料自給率が40%と先進国では最も低い国であることはよく知られている。
ここで仮想水という考え方で水の間接的な輸入について考えてみよう。
9割が輸入に頼っている小麦を例に見てみると、1kgを生産するのに必要な水の量は2t超となり、うどん一杯で160リットルもの水を輸入している計算となる。
こうして輸入品の考察を積み重ねていくと日本は年間に1035億tの仮想水を輸入する計算となってしまい、何と最下流国に落ち着いてしまうのだ。

それでも輸入できる状況が続けば良い。(無策で円高も続いているし...)
しかし日本に対して安定的に食料輸出を続けていた豪州などは、爆発的人口増加と食の近代化により需要が拡大し、さほど品質に口を出さない中国や印度などに輸出先をシフトし始めている。

また、世界で使われる水のうち1/3は農業用水だが、水脈の枯渇によりあの豊かな米国でも農作物の生産量が落ちてきている。
ステーキ1kgを生産するのに必要な飼料や牧草に使用する水は20tと言われている。
日本に流通する牛肉は49%が豪州産、45%が米国産。
その両国に深刻な水不足が迫っていることを考えると、個人的には残念だがいつまでも牛肉を食べられる環境が続く保証はどこにもない。

加えて日本は、過去から続く政策として減反政策や大規模森林政策後の人工林を放置するなどの誤った方向へ進んできた。これらの失敗政策により土壌は保水能力の低下を来たし始めている。
実はこの数年間、日本の森林資源は素性のわからない誰かに大量取引されている。
詳細不明ながらも、中国を含む外国資本が日本の森を買い進めているのは事実だ。
彼らは取引上の名義にダミー会社や個人を当て、日本人を使って購入させている。
ちなみに対馬における韓国の土地購入は80年代後半から始まっていたのだが、間抜けなことに日本がその事実に気づいたのは約20年後の'08年であった。その時の手法と同じなのだ。

法的に地下水は土地に付属する動産という位置づけに当たる。
従って森林の所有権海外流出はその地に存在する水脈もろとも外資に奪われることとなる。だが、日本政府はここに至っても、実態把握さえできていない状況だ。

国内で派閥なんぞにウツツを抜かすのは勝手だが、政治の平和ボケは平和な時にしてもらいたい。

流行の大河ドラマではないが、どこかの偉人が「日本を洗濯」してくれないものか。

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