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たけだ通信 No.101 (11月発行)

武田病院グループ専務理事 武田隆司

足るを知る

photo_senmu.jpg【エッセー】
武田病院グループ 専務理事
医療法人財団 康生会 理事長
 武田 隆司

■足るを知る

最近世界の流れが乱れているような気がする。

米国が金融・投資で好景気に湧いた数年前は他国もそれに倣えとばかりに追従し、国家ぐるみでファンド運用に没頭した国も存在した。

アイスランドなどが一時的に成功(?)を納めたものの一気に暗転し、全ての銀行が破綻し国営になってしまうという理解不能な出来事が起きたのも記憶に新しい。
「こうした事態の原因はサブプライムをはじめとするジャンクファンドが不良債権になったせいだ」という何となくわかったような、でも実際にはおそらく殆どの人は納得していないような"ドッチやねん的理由"であたかも説明がついたかのように話題は収束した。

このような世界情勢の背景には米国が様々な意味で強国であるというイメージを背景にドル紙幣を一気に増やしたことも影響している。
本当に輪転機を廻し続ければ国が豊かになるのならば、それはその国にとって素晴らしいことだ。

日本も長引く不況から脱却するため、米国と同様にマネーサプライを増やして強制インフレを誘発し、円安状態を引き起こすことで貿易黒字を得ることが出来るという理屈も納得できるような気はする。
頭では理解できるのだが、バブル崩壊から長引く不況を経験した我々日本人としては出口の見えない政治不信も相まって、もっと根本的で革新的な改革が行われなければ将来に希望が持てないような気がするのも事実だろう。

それはさておき、なぜ景気が悪くなるのか?
当然お金の流通が滞るからだ。これは誰でもわかる。
しかし今回日本における不況の原因とされる「為替相場の乱高下」というものがなぜ起こるのかと考えるとちょっと難しい。
単純に考えると、ある国の信用度が変動することによって相対的に他国の信用度が逆変動するといったところであろうか。

例えばジャンクファンドを売りさばいて、債券者に融資を繰り返すことによってお金の流通を捲し立て「演出された好景気」に沸いていた米国を例に見ると、その実態が明らかになった途端に米ドルの信用は暴落した。
(ちなみに賢人ウォーレン・バフェットはその数年前から逸早くこの事態を予測し、ドルを売り続けていた)

通貨に対する不安から金価格は上昇の一途を辿っている。
この理由の一つには中国が金の世界最大保有国を目指して買い続けているためだという説もある。
結局通貨は金本位制に回帰するのだろうか?

そもそも過去において通貨は金であった。
日本では豊臣秀吉の時代に大量に金が採掘され、「黄金の国ジパング」とまで称されたが、なぜか銀を珍重する国柄(銀行・銀座などの単語でもわかる)であったので多くを海外の銀と交換してしまったという。
故に金本位制と銀本位制が何度か入れ替わるという珍しい歴史を有する国でもある。

ともあれ、第二次世界大戦後は事実上機能しなくなった金本位制を日本が正式に廃止して、現在の管理通貨制度へと正式に移行したのは意外と最近で1988年のことだ。
これ以後、通貨価値は概念になった。
ネットバンキングや電子マネーは大変便利で私自身も日々利用しているが、ふと「お金って何だろう?」と思うと怖くなるような時がある。
そして「お金が概念になった」瞬間から、経済を金融が牛耳るという上下関係が生まれてきた。
その象徴的な思想が現在のグローバル資本主義であり、これは1970年代初頭にはじまった新自由主義を起源とする。

本来、経済は人々の生活や社会から生まれた富の流れであったはずが、いつの間にか逆転し経済が社会を支配するという構図が出来てしまった。
こうした考えをまとめてみると、現代という時代は頂点に金融が君臨し、その下に経済、更に下に社会が存在し、最下層に自然が位置する。
しかし本来は全く逆の、自然・社会・経済・金融の順であるべきだと思う。
これは「自然が人間を必要としていなくても、人間は絶対的に自然を必要とする」という事実から考えても明らかだ。

この歪みを理解すれば、世の中で巻き起こっている様々な現象に対する違和感も幾らか理解ができる。

東日本大震災復興予算という日本国民が珍しく心を一つにして拍手を送って捻出したお金が、なぜ箱物やシーシェパードに対する安全対策・沖縄の国道整備・アジアと北米の青少年交流などというものに霧散してしまうのか?
全く収束していない原発事故を差し置いてあれほどの抗議の中、廃炉どころか再稼働を望む人がいるのはなぜなのか?
もはや経済大国と自他共に認める中国への莫大なODA援助(本年度42.5億円)や、「もう結構」と相手側から公言されている韓国への通貨スワップという名の資金援助を続けたいのは誰なのか?
「余命が短い病人ほど高く売れるという生命保険」の売買を新しいビジネススタイルと考える人々にとって大切なものは何なのか?

「もしアリストテレスがタイムマシンで現代にやって来たら、負債を抱え雇用主に自分を貸し出している今の米国人と、彼の時代に負債を抱えて奴隷になった人々との違いは法的用語の違いだけだと言うだろう」と語った活動家がいたが、米国人と日本人の文字を入れ替えるだけでしっくりと納得できてしまうのが今の日本の悲しい現実である。

経済学者に洗脳されている経済界・官僚・政治家・マスコミは、口を開けばGDPの伸びが落ち込んでいるということを国家の衰退と囃し立て「日本消滅!」などと衝撃的な言葉で煽り立てる。
しかし、そもそも成熟した国家のGDPが伸び続けることはあり得ない。
限りある資源を利用して経済が伸び続けると主張するのはバカと経済学者だけという言葉もある。
(画期的なinnovationが起これば別だが)

かつて日本はGDPで独仏等の成熟国を追い抜いて来たが、今の独仏が日本よりひどい生活をしていると思う人がどれほどいるだろうか?

問題は先述のように血税の搾取を増やし続け、使い続けたい'Tax Eater'の存在だ。

もうこれ以上「世界を搾取略奪型の支配者に任せてはおけない」という思いは期せずして世界中で巻き起こっている。

2011年10月15日、世界82カ国1000もの都市で一斉に「世界を変えよう」という運動が起こった。
この活動の原点は同年5月15日にスペイン・マドリッドで起こった所謂「15-M運動」である。

もう止められないほど動き出した民衆の反乱を「大衆の不満が爆発した」とマスコミや政治家は論評する。
或いは「感情に走り過ぎており論理や知性に欠ける」「左翼的思想に偏った行動」と批判する。
それはまるで福島原発事故の後に各地で起きた抗議活動に対して、某大教授や著名な解説者の方々が挙ってTVに出演し、仰っていたお言葉と酷似していて気味が悪いほどだ。


t-tsushin101.senmu1.jpgそうした大人目線で傍観していればいつの間にか事態は収束し、また古き良き時代が戻って来るという甘い考えはもう捨てた方が良いだろう。

2009年の政権交代で現状の青写真を感じていた我々は変化に期待した。
しかし、ものの見事に...というより想像を遥かに超越した酷い数年間を費やしてしまった。

現時点では今回の選挙結果が如何なるものになるのかはわからないが、民主党が下野することだけは間違いないだろう。
そしてこうした世界が動き出している時代に「過去の夢よもう一度」などと考えている人には投票しない方が懸命だと個人的には思う。

我々にとって最大の不幸はこの貴重な一票を入れたいと真に思わせてくれる党派も政治家も存在しないことだ。

でも皆さん、不幸な結果を他人のせいにしないためにも投票には行きましょうね。

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