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※医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。

2012.09.26 糖尿病の患者さんの皮膚や足のトラブル

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糖尿病の患者さんの皮膚や足のトラブル


医仁会武田総合病院 皮膚科 部長 松井 美萌


糖尿病の患者さんが増えている、ということを聞かれたことがある方も多いかと思います。本日は、糖尿病の患者さんによく見られる皮膚のトラブルや足の病変に関してお話しします。

まず、皮膚のトラブルの代表的なものとして「帯状疱疹」をあげたいと思います。帯状疱疹とは、幼小児期に罹患した水痘の原因である、水痘―帯状疱疹ウイルスが再活性化して生じる疾患です。加齢や疲労、ストレスが誘因となることがあり、糖尿病を患っている方では出現し易くなります。病態としては、神経節に潜んでいた、ウイルスが再活性化して、皮膚と神経の炎症が起こりますので、はじめは、体の片側の神経に沿ったぴりぴりした痛みから始まることが多いです。数日して痛みのあった個所に紅斑や水疱が集簇性に出現してきます。ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬を使用することが大切です。2週間程度で水疱は乾燥し症状が改善してきますが、重症の症例や高齢の方では、疼痛が残ることがあります。

さて、糖尿病の患者さんに皮膚科医として、気をつけていただきたいのが、「足の壊疽」です。"糖尿病の患者さんの足の特徴"として、簡単に述べると3つのポイントがあります。
 (1)神経の障害がある
 (2)血流の障害があることがある
 (3)感染に弱い
という3点です。

1つ目の、神経の障害は、運動神経の障害・知覚神経の障害・自律神経の障害などに分かれますが、一番問題になるのは"痛みが分かりにくい"という知覚障害です。キズがあってもわかりにくくなります。2つ目の血流の障害としては、全身の血管にダメージがありますが、細い血管では網膜症や腎症を引き起こし、太い血管では心臓などでの血管に障害を来します。皮膚科の患者さんで問題になるのは、血流障害のためキズが治りにくいという点です。3つ目の感染に弱い、という点は、細菌やウイルス・真菌などに感染し易く、また重症化しやすいという面があります。

壊疽というと、だれでも「コワイ状態・足は切るの?」などのイメージをもたれるかもしれませんが、意外にも、はじめのきっかけになるのは、たとえば深爪で爪の周囲に炎症を来した、とか、靴擦れから細菌感染を起こした、低温熱傷を生じていたが、痛みがわからず、気付くのが遅れた、などの身近なトラブルであることが多いのです。このような、ささいなトラブルであったはずのものが、"感染が拡大して全身にも影響するほどの敗血症になってしまった"とか、"壊死が深く及び骨まで至ってしまった"というときに、改善の見込みが乏しく全身状態にも影響する場合には、足の一部を切断するという事態を引き起こすことがあるのですが、当院の実際の症例をみてみましょう。

■症例 (1)
80代、男性。
花びんを踏み、足先に外傷を負い、改善しないため、当院を紹介受診となる。糖尿病は数年間治療を中断していた。足は、趾部の皮膚の一部が壊死しており、膿が貯留していた。

■症例 (2)
30代、女性。
座りダコから感染を来し、下肢に感染が拡大、入院となる。タコの箇所は潰瘍となった。1年前に他の箇所の感染を契機に糖尿病であることを知ったが、コントロールができていなかった。

■症例 (3)
40代、男性。
右足首の皮膚の壊死に気付く。3年間糖尿病は治療を中断していた。

この3例をみますと、特徴的なことは、いずれの症例も糖尿病の治療が中断されていたり、うまく管理できていないという点です。血糖管理の指標となる、HbA1cの値が通常では6.9%未満を目標値としますが、いずれも2ケタの高値を示していました。

どの症例も、糖尿病の管理、感染の管理、病変の深達度の評価、血流の評価、という観点より治療を開始しました。簡単に述べますと、症例1では下肢の血管の閉塞を認めたため、循環器内科にて、カテーテル治療を施行いただき、その後改善に至りました。症例2では、細菌感染を十分に治療し、潰瘍は、陰圧持続吸引療法を使用し上皮化に至りました。症例3では、患部は、骨髄炎に至っていましたので、骨の一部を除去した上で上皮化することができました。いずれの症例も、切断することなく数か月後には自分の足で元気に歩いて日常生活に戻ることが出来ました。

何度も同じことを述べますが、足の壊疽や難治性の潰瘍に至るきっかけは、ささいな皮膚の病変であることが多いのです。はじめに述べたように、糖尿病の患者さんの特徴である、神経の障害のために「痛みがなくてキズがわからなかった」とか、血流が乏しいため"難治性"になる、感染に弱いために、細菌感染が重症化しやすい。などの特徴があり、悪化しやすく治りにくいのです。

そのために、気を付けていただきたいことは、常に自分の"足を見る"こと、"足を守る"ことを忘れないこと。低温熱傷や足のタコ・魚の目の処置、足白癬、爪周囲炎などのケアは是非、皮膚科を受診することをお薦めします。自己流での処置で、悪化することがありますし、糖尿病性網膜症などを併発している方では「皮膚の異常が良く見えない」ということもあります。そして、大切なのは、日々の糖尿病の管理です。不安があればいつでも当院を受診ください。総合病院として、糖尿病の管理からキズのケアまで多くの科の医師やスタッフが協力して治療にあたらせていただきます。

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