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たけだ通信 No.107(6月発行)

武田病院グループ専務理事 武田隆司

innovation

photo_senmu.jpg【エッセー】
武田病院グループ 専務理事
医療法人財団 康生会 理事長
 武田 隆司

■innovation

いよいよ待望のアップルウォッチがリリースされた。
これに関しては所謂wearableという進化に過ぎず、デザインを除けばAppleの作品としては斬新さに欠けるように思う。
従ってしばらくは友人の購入した現物を見せてもらって感心する程度、つまりは様子見だ。
何を隠そう私はApple派で、iPhoneは3G時代から使用している。
スマートフォン(スマホ)という物は、iPhoneとその他の2種類しかこの世に存在しないという考えの持ち主だ。
もちろんPCはiMacでタブレットはiPadである。
iPhoneの凄いところはその後の世界を変えたことだ。
わずか8年前の発表当初は、この「綺麗だがのっぺりした板状の物体」を利用して電話をかけたりメールのやりとりが出来ることには誰もが懐疑的だった。
しかしながら現在、先進国で最もスマホ普及率が低いと言われる我が国(おそらく各社がガラケー開発に勤しんだため)でもすでに50%を超えており、シンガポールなど国によってはその普及率はほぼ100%近くに達する。
しかもほぼ全てのスマホは未だに初期iPhoneのデザインを色濃く踏襲していることを鑑みれば、この発明が如何に偉大な出来事であったかがわかる。

このように新しいアイデアから意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす変革をinnovationと呼ぶ。

我々医療界では技術進歩は日進月歩であるのが当たり前の世界だ。
(未だに「高齢化が医療費を上昇させる」という間違った記事を読むことがあるが、医療費の高騰化は技術進歩の結果なのです)

その中でもinnovationと呼べる発明を一つ挙げるとすれば、個人的にはレントゲンだったのではないかと思う。
この発明により、それまで判らなかった病態や外傷の診断が可能となり、治療までの過程が大幅に短縮された。
また後のCTはレントゲンを応用した技術であり、更にその後のMRIは原理は違えどCTの考え方を発展させたものである。

そこで次の医療innovationはと言うと...これまた個人的には山中教授のiPS細胞だと思う。
まだ研究段階ではあるが、おそらく近い将来には再生医療や創薬技術にも革命を引き起こすと考えられている。

こうした革新的な発明は莫大な利益を生むため、特許によるprotectionが必要となる。
iPS細胞についての特許は利益の確保が目的ではなく、研究普及のために公的機関である京大が所持する形が取られている。
実際に米国企業が特許取得を主張してトラブルになったこともあるそうだ。
企業がiPS特許を取得すると、間違いなくその技術を独占するために世界中でのiPS研究が滞る。
それを阻止する目的のために、つまり世界中の心ある研究者がiPS細胞を扱えるようにするために、日々各国での特許取得を進めているとのことだ。
日本に山中教授がいて良かった!

ところで、かつてはエネルギー分野でinnovationと考えられていた原子力発電だが、東日本大震災以後はその安全神話も砂上の楼閣であったことが露呈した。
幸いなことに福島原発事故では現時点で人体に対する明らかな健康被害が認められていないとは言え、高熱を発し続けて冷却水が海洋を汚染し続ける現状を持って「地球温暖化防止のための環境に優しいエネルギー」という以前の謳い文句はもう使えないだろう。
シェールオイルが大量に生産されるようになった現在、本来は停止も視野に入れるべき原発を、それでも廃炉が技術的に不可能なために動かし続けている現状こそが理不尽な電力価格の高騰を招き、日本の経済を停滞させているのは疑いようのない事実である。
此の期に及んで他国へ原発を売り込む首相のアタマの中はどうなっているのだろうか?
もし採用した国で同様の事故が発生すれば、日本は国家としての責任が大きく問われるであろう。

電力に関して言えば発電技術は一般に知られている以上に多岐に実用化が進んでいる。
そこで必要とされているのは、現在と桁違いの蓄電システムだ。
再生可能エネルギーにおける課題は、発電以上に安定供給が可能かどうかに実用化の要がある。
(それ故、原発は未だに「重要なベースロード電源」と位置付けられ、関係者は虎視眈々と再稼働を企んでいる)
つまり、今までの常識を超えた桁違いの蓄電技術が開発されれば、現時点でも再生可能エネルギーと最新の高性能火力発電で日本の全必要電力を賄える可能性は高い。
(ただし廃炉と放射性廃棄物に対する技術対応が開発されない限り、日本におけるエネルギー問題は結局解決しないというのが過去の誤った政策の重い十字架であるのだが...)

もしもその蓄電技術が開発されれば、現在のように化石燃料を焚き続ける社会は終焉を迎えるだろう。 おそらく自動車やバイクなども含めて、現存する多くの内燃機関はモーター方式の駆動に取って代わる可能性が高い。(個人的には残念だが)
その日を持ってエネルギー問題は本当のinnovationを迎えるのではないだろうか。

ところでこうしたinnovationは人に弊害を与えることも少なくない。
先のスマホに関しても最近では依存症問題が増えてきている。

私も電話やWeb・メールはもちろん、スケジュール管理に銀行管理など頻繁に利用しているので気をつけねばならないのかも知れないが、依存症になる人の多くはSNSとゲームに没頭することが原因のようだ。
依存症の症状には一日に4時間以上画面を見ているとか、友人と同席中でも会話に入らずスマホを触らずにはいられないなどの基準があるとのことだ。

そう言えば最近のこと車を運転していると、スマホを見ながら自転車に乗っている女子学生が平気で赤信号を横断して怖い目にあったことがあるし、信号待ちで隣の軽トラックが急ブレーキを踏んだので驚いて見るとスマホを握りしめた青年が運転席で固まっていたこともあった。
どちらも一歩間違えれば命を失っていてもおかしくない出来事だった。

考えれば一日に4時間という時間の浪費はもの凄い。
一日の睡眠時間が7時間とすると行動時間は17時間であり、行動時間の約1/4が画面を見ていることになる。
二十年間同様の生活を続けると仮定すると29200時間となり、これを行動時間で割返すと実に1717日つまり四年半以上がスマホを見ていただけの時間になる。
その時間を何かに没頭できれば大概のことは成せるだろう。

人は誰でも弱い部分がある。
しかしそれを理解した上でこうしたinnovationを楽しめば、きっとより良い明日が来るだろう。
個人的には次のinnovationが何なのかと考えると、それだけで日々がワクワクするのだ。

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