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たけだ通信 No.103 (1月発行)

武田病院グループ専務理事 武田隆司

盾の両面

photo_senmu.jpg【エッセー】
武田病院グループ 専務理事
医療法人財団 康生会 理事長
 武田 隆司

■盾の両面

皆さまあけましておめでとうございます。

さて早速だが世の中には様々な風物行事があるもので、その一つに選挙の時は「社会保障の充実」を大々的に掲げておきながら、予算編成が近づくと「医療費の抑制こそが重要だ」とのたまうエラい先生方がおられる。

現時点で本年度の診療報酬改定はプラス0.1%になるとの報道があった。
我々からすると何とも玉虫色の決着だという嫌な感想しかないのだが、世間的には「また病院モーカルなー」などという素敵な感想が溢れそうで恐ろしい。
しかしながらこれは行政が得意とする数字のマジックで、消費増税や薬価の減額などを織り込むとマイナス1.26%となり6年ぶりのマイナス改定となる予定だ。

マスコミは滅多に報道しないが、医療行政には消費税問題という深刻な構造の欠陥が存在する。
消費税を支払うべきはエンドユーザーであることは誰しもが承知の事実だ。
しかし、こと医療に関してはこの常識が成り立たない。
消費税は事業者側である医療者が払うことになっており、エンドユーザーである患者さんが支払うことはない。
そして診療報酬には消費税も含まれているということになっている...が本当か?

平成元年に竹下内閣により3%で始まった消費税は「福祉を充実させる」という目的で橋本内閣により平成9年に5%へと引き上げられた。
そして8%へ引き上げられる本年度の増税も、選挙時に安倍総理は「社会保障の充実を目的」...と旗を掲げていたのだが。

この矛盾を時系列的に検証してみよう。

5%へと引き上げられた翌年(平成2年)は「福祉を充実させる」「消費税は含まれている」という言葉が真実ならば最低でも2%は上がるはずだろう。
しかし結果はマイナス1.3%...
2年後の平成12年には申し訳程度の0.2%上がっているが、それ以後の平成14年~平成20年までは最大3.16%を含むマイナス改定が続く。
ここで深刻な医療崩壊を来すこととなり、以後はほぼプラス0%が続いてきた。

つまり平成に入ってからの自民党は、何かに取り憑かれたように消費増税と医療費抑制の実現を敢行し続けてきたと言える。

ところでここまで読むと「何で医療費って上がるの?」という素朴な疑問が湧く人も少なくないだろう。
マスコミによると「人口高齢化のため」とステレオタイプの説明だが...それも本当?

米国のある医療経済のレポートをご紹介しよう。
このレポートでは医療費上昇の要因を以下の5つと仮定して検証している。

1)人口の高齢化
2)医療保険制度の普及
3)国民所得の上昇
4)医師供給数増加
5)医療分野と産業における生産性上昇率の格差

もちろん米国と日本は全く違う風土なので参考程度に過ぎないが、考察結果を以下に記す。

1)米国では65歳以上の人口割合は1950年~1987年の間に8%から12%に上昇した。
この期間に医療費が425%上昇したのに対して、人口の高齢化は15%寄与した。
このことは人口高齢化の寄与率が、医療費の総上昇率のうちわずか3.5%であったことを示しているとのことで、直接相関関係があったとは言えないと筆者は捉えている。

2)医療保険制度は全く別物なので割愛。

3)1940年~1990年までの期間に米国の実質国民所得は180%上昇した。

また複雑で理解できないが、国民所得上昇は医療費を35~70%上昇させたと算出できるとのこと。
この期間の米国の総医療費は780%上昇しているので、国民所得上昇の寄与率は約4.5~9.1%になり、これも直接的要因とは考えにくい。

4)10年毎で調べると、米国では医療費が増えている時期と医師供給数が増えている時期にズレがあったとのこと。
余談だが現在の日本では「医師不足」という言葉が独り歩きし過ぎており、医学部定員を増やした上にまた医学部を新設するとした国の方針は近視眼的に思える。
最大の問題は、医師のmotivation低下による「地域と科の偏在」であることに、机上で考えている役人達が気付かないことだ。

5)これまた難しいのだが、つまり高血圧の患者さんの収縮期血圧を120mmHgに維持するのに必要な人的及び医療資源が、過去30年にどう変化したかを測定したものがあり、これと比較すれば理容店や美容室で一人の髪を切るために必要な時間はほとんど変化していない。
故に医療の生産性が上昇しているのは明白だとのこと。

これらを踏まえての結論は、医療費が高騰した真の原因は「医療技術の進歩」ということだ。
つまりは急性期医療で行われる超高度に進歩した医療行為(薬剤投与を含む)が医療費高騰を招いているということだ。

例えば患者さんの支払いが多い(ので「モーカル」と思われがちな)ペースメーカー移植術のスタンダードなものは手技料が7.8万円に対し植え込み機器の本体価格が126万円、病院が負担する消費税が6.3万円となり実質利益はない。

医療に更なる結果を求めれば求めるほど医療費は高騰し続け、これを政策で抑制するには限界がある。
かつての小泉政権ではその無理を通し続けた結果が医療崩壊を招いてしまった。

前回のコラムでも書いたのだが、今後の医療に何を求め何処へ向かうのかを国民も真剣に考えなければならない時期が来たのだと思う。

補足として、地味に医療費を引き上げている分野がある。
このような記事を読んだ方もおられるのではないだろうか?
「2013年3月期分の有価証券報告書で、M社長の役員報酬が5億9000万円だったことを明らかにした。前期より6100万円減少したが、それでも調剤薬局チェーンでは突出した高額報酬となった。調剤薬局の役員報酬については一部で高額化しており、日本医師会や同業者からも疑問視する声が出ている」
本来は医薬分業を目的に進められた政策であったが、もはや色んな方々の利権も入り交じり、患者さんの負担が増えるだけのヘンな状態となっているようだ。一刻も早い是正が望まれる。

もう一つは近年何かと世間をお騒がせしているので、書くのに少々勇気がいるのだが、柔整・鍼灸・あんまなどの分野だ。
実はこの分野は医師の同意のもとに施行した場合にのみ保険給付が受けられるという制度のため、統計上も医療費のどこに入っているのかが誰もわからないブラックボックスであった。
理由は業界全体が強烈なロビー活動に力を入れており、政治に強いコネクションを持っているからに他ならない。
しかし最近は不正請求が後を絶たず、そうとばかりも言っていられなくなったようだ。

ちなみに平成21年度の総額は4800億円となっており、この5年間で柔整19%・鍼灸81%・あんま113%の上昇を認める。
様々な構造的問題が考えられるが柔道整復師だけを見ても、平成8年の2万8000人が平成22年の5万人まで倍増している。

毎年5000人ペースで増加しており、病院のような就業施設がほぼ存在しないために多くの人々が独立開業し、パイの奪い合いとなるために不祥事が続くのだと考えられる。
自浄作用の確立も含め、こちらも一刻も早い対策が必要だろう。

とまぁ新年早々毒を吐いてみましたが、今年もオモテナシの心でグループ全体で頑張っていく所存ですのでご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。

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