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たけだ通信 No.111(3月発行)

武田病院グループ会長 武田隆男

「配慮」を欠かさない寛容で明るい社会へ

武田 隆男
武田病院グループ 会長

 武田 隆男

■「配慮」を欠かさない寛容で明るい社会へ

 この冬の寒波は厳しいものでした。鳥取では300台以上の自動車が立ち往生し、自衛隊が救援出動しました。京都でも北部を中心に大雪に見舞われ山陰線は運休。最高では94cmもの積雪があったそうです。とりわけ問題になったのは透析の患者さんです。大雪で医療施設に行くことができず、透析が受けられない事態となりました。当グループも山間部で、通院が困難な高齢の透析患者さんを宮津武田病院のスタッフがお迎えにいく取り組みを行っています。こうした災害時だけでなく、平時から支え合いの輪を広げていくことが重要だと思います。

 さて、医療では高齢者を専門領域とする「老年医学」という分野があります。小児の医療が「小児医学、小児医療」として専門領域となっているのと同様、高齢者の医療もまた専門性が必要なのです。これは、年齢を重ねることによる生理的な変化や、多数の疾患を抱えていることが多いため、通常の成人医療の診療ガイドラインに沿って治療すると、必ずしも良好とはならないからです。また、老化の進行具合は人によって本当に大きな違いがあります。身体面だけでなく、精神面や社会生活の面など、取り巻く環境の違いも大きいため、治療による影響には十分な注意と配慮が必要です。

 高齢者の医療で特に問題となるのは「お薬」による影響です。若い方向けの分量を処方すると、多すぎて有害になるケースが少なくありません。日本老年医学会等が作成したガイドラインを見てみましょう。

 若年者対象の診療ガイドラインの適用により必ずしも良好な結果が得られないため、疾患や症状毎に薬物療法を行う考え方は必ずしも適切でない。個々の患者の疾患や重症度、臓器機能、身体機能・認知機能・日常生活機能、家庭環境を総合的に考慮し、患者と家族の目指す治療目標に応じて薬物の適用と優先順位を判断し、必要な薬物を選択し、優先度が低い薬剤は中止を考慮する。

 代替手段が存在する限り薬物療法は避け、まず非薬物療法を試みるべきである。全ての薬物(ビタミンや漢方薬、OTCなども含む)をお薬手帳などを用いて把握し、併用薬が不明な場合、原則的に新たな処方は避ける。薬物動態や薬力学の加齢変化、生活環境の変化によって、薬物が不要になる場合がある事を理解し、定期的に必要性を見直すべきである。

 「考慮する」「避ける」など、細心の注意が必要だと喚起を促しています。高齢の入院患者さんの3~6%は薬剤起因性とされており、長期入院の要因ともなるからです。

 もちろん、高齢者の治療は「処方量」だけが重要なのではありません。若い世代の方とは、疾患に対する心身の抵抗力が全く異なることが挙げられます。実は私も昨年末に調子を崩しました。若い頃とは異なり、体調が崩れると気力までなくなってしまいます。こうなると、治療そのものを「しんどい」と感じるのでどうにもなりません。あらためて医療者の方々には、数値に目を向けるだけでなく、こうした「感じ方の違い」がとても重要であることを理解して欲しいと思います。気持ちに配慮した血の通う医療の徹底ですね。

 来年度は、「国民健康保険の財政都道府県単位化」「新たな医療費適正化計画」「診療報酬改定」「介護報酬改定」が集中するため、厚生労働省はこうした状況を「惑星直列」と言っているそうです。なんともインパクトのあるネーミングで、改革を促すには適しているようにも感じます。しかし同時に様々な「効率化」を進めるものでもあり、患者さんへの「配慮」がどれだけなされるのか注視していかなければなりません。決して切り捨てにつながることのないよう、血の通う制度改革につなげて頂きたいものです。

111_kaicho.jpg 若い世代の方を中心に、色々と辛口なことを申しましたが、「若者を非難するのは、年寄りの健康に欠かせぬ要素であり、血行を良くするのにとても役立つ」との名言(迷言?)もあります。
 こうした言葉を笑って受け入れられる、若者にもお年寄りにも寛容で明るい社会であればと願う次第です。

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