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すこやか健康相談 十条武田リハビリテーション病院 院長 勝見 泰和 「手根管症候群について」

2018/04/11 インフォメーション 武田病院グループ

※医師やスタッフの肩書き/氏名は放送時点でのものであり、現在は変わっている可能性があります。



手根管症候群について

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十条武田リハビリテーション病院 院長 勝見泰和




手根管症候群とはどういう病気ですか?

手首にある骨と靭帯に囲まれた手根管というトンネルのなかを、指を曲げる9本の屈筋腱と神経がとおっています。手根管症候群は、このトンネルの中の神経が慢性的な圧迫を受け、神経領域のしびれや痛み、運動障害が起こる病気です。
圧倒的に女性の患者さんが多いです。

手根管症候群の原因はなんですか?

その原因には、手を酷使する重労働者に発生する腱鞘炎、手首の骨折後、トンネルの中の腫瘍、関節リウマチによる滑膜炎などによる手根管内の圧力上昇によるもの、そして妊娠、糖尿病、腎疾患、痛風などのホルモン変化や代謝性疾患に随伴するものがあります。しかしながら、最も多いのは、中高年の女性に多く発生する原因のはっきりしない特発性手根管症候群です。

手根管症候群の症状を詳しく教えてください。

手根管のトンネルの中を通り、圧迫を受ける神経は正中神経という末梢神経です。
一般的には、人差し指、中指を中心にしたしびれや痛みで発症することが多く、しだいに親指と薬指に、しびれが広がっていきます。典型的な症例では、夜間や明け方に痛みやしびれが増悪し、睡眠中に痛みで目を覚ますこともあります。
このときには、手を振ったり、指の運動をすると楽になります。進行すると親指の付け根の母指球筋という筋肉がやせてきて、細かい作業が困難になります。 とくに親指を他の指と向かい合う位置にもっていく対立運動ができなくなります。
そのため、ボタンをかけたり、物を指でつまむなど、親指とその他の指を使った細かい動作が出来なくなってきます。

手根管症候群を疑ったときは、何科にかかるのがいいですか?

指にしびれや痛みがあり、手根管症候群が疑われるときには、整形外科や神経内科を受診してください。特に手外科の専門医は、この病気に精通しているので、私は薦めます。スマホやパソコンで、手外科学会のホームページを検索すると、近くの手外科専門医を探すことができます。また、そのホームページには、手根管症候群について説明しているコーナーがあります。

手根管症候群と診断してもらうのは難しいですか?

診断のポイントは、親指から薬指の親指側に限局したしびれ感と感覚障害です。 多くの患者さんは手全体が痺れて、感覚が鈍いと訴えられます。しかしながら、丁寧に感覚障害を調べますと、小指はしびれ感がなく、薬指の小指側は親指側に比べて、明らかに感覚障害が少ないです。
神経が圧迫されている手根管部を軽く叩くと、指先に放散する徴候や、手首を曲げてしびれ感が増悪する徴候はかなりの症例で陽性を示します。
重症例では母指球筋のやせ細り、筋萎縮がおこりますので、診断的価値は高いと考えますが、頚椎の変形などの中枢部での神経障害でも筋萎縮がおこりますので鑑別診断が大切です。感覚障害の分布や筋萎縮の範囲を考えながら、他の疾患と鑑別していきます。
鑑別診断としての検査として、電気生理学的な検査とMRIによる画像診断をよく行います。

手根管症候群にはどんな治療がありますか?

しびれや痛みの程度にかかわりなく、保存療法が原則です。一般的には、症状が軽度から中等度のときは、手首を安静に保つための装具を使用したり、ステロイド薬のトンネル内注射を行います。内服薬では痛み止めやビタミンB剤を処方します。これらの保存療法が効かない場合や、筋肉にやせ細りがある場合は手術を行います。手術の方法は、靭帯を切ってトンネルを開き、神経の圧迫を取り除きます。

手根管症候群の手術にはどんなものがありますか?

手根管症候群の手術の最大の目的は手根管を被う靭帯を切開して、手根管自体の容積を増大させて正中神経への圧迫を取り除くことです。手根管開放術と呼びますが、内視鏡による鏡視下手根管開放術と、切開により直接に圧迫された神経を観察する直視下手根管開放術に分かれます。どちらの方法も長所と短所がありますが、当院では、患者さんの症状の程度などによって、使い分けています。

それでは、まず鏡視下手根管開放術について詳しく説明してください。

内視鏡による鏡視下手根管開放術は、外来手術で局所麻酔下に手術を行います。
トンネルの入り口と出口付近でそれぞれ1cm程度切って内視鏡を挿入し、手根管の靭帯のみを手根管内から切離します。それゆえ鏡視下手根管開放術は低侵襲であります。しかしながら、神経から少し離れた位置に内視鏡を挿入するので神経の圧迫の程度がわからないという短所もあります。この手術は、特発性の手根管症候群や手の酷使により生じた手根管症候群に適応があると考えています。

もうひとつの直視下手根管開放術について詳しく説明してください。

直視下手根管開放術は外来手術でも可能ですが、当院では一泊入院で伝達麻酔下に手術を行っています。3~4cm程度の皮膚切開により、横手根靭帯という靭帯を切離し、直接に圧迫された正中神経を開放します。少し手術侵襲が増しますが、圧迫された神経を直接観察でき、他に圧迫の原因が存在しても同時に除去できます。頚椎の関与や糖尿病などの基礎疾患がある場合、さらには滑膜切除などが必要なときに適応があると考えています。

手術するとどのくらいでしびれや痛みはとれますか?

これは手術前の程度により異なります。症状が軽い早期例では、手術翌日から効果がみられますが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度の日数がかかります。
神経の圧迫が強いと神経が再生するための時間がかかります。神経再生は一日1mm程度再生していきます。再生神経の先端は過敏になることがあります。
また筋肉が萎縮してしまうと回復が悪くなります。

親指の付け根の筋肉がやせてしていると手術法がかわるのですか?

.手根管症候群を放置すると母指の付け根の筋肉(母指球筋)がやせ、ボタンかけなどが困難となり日常生活に大きな障害が出ます。こうなってしまった場合は手根管開放や神経剥離だけでは改善しないため、手術の際に腱の移行術を追加して失われた母指の機能を再建することとなります。腱移行の手術自体は危険なものではありませんが、術後のギプス固定期間が3週間程度必要となり、しびれ自体も十分に取れない場合があります。症状が進んでからの治療は時間がかかることが多いので、手根管症候群はなるべく早い治療をお勧めします。