※医師やスタッフの肩書き/氏名は放送時点でのものであり、現在は変わっている可能性があります。

糖尿病(低血糖)について
十条リハビリテーション病院 糖尿病センター部長 西野 和義
私の周りでも糖尿病の治療をしている人が増えていて、「低血糖が心配だ」とよく話しています。どういったことなのでしょうか。
血糖は血液の中のブドウ糖のことです。その量には正常範囲があり、空腹時では血液100ccの中に70~100mgのブドウ糖があり、食後には誰でも増加します。普通では食後一時間後にピークに達し、二時間で空腹時の数値に戻ります。食後一時間後のピークでは140mg未満が正常で、この正常値を外れると病的な状態になります。正常よりも高ければ高血糖、低ければ低血糖です。糖尿病の治療中の低血糖は非常に頻度が高く、これは血糖を下げるお薬を使っているためです。
ブドウ糖についてもう少し詳しく教えていただけますか。
ブドウ糖は体のエネルギーです。体の三大エネルギーは糖質、脂質、タンパク質で、人体は糖質をもっともよく使います。これはエネルギーの変換効率がもっともよいためです。糖質はごはんやパン、麺類などの炭水化物に多く含まれ、これらはブドウ糖という形になって初めてエネルギーに変換します。中でも筋肉や肝臓など、ほとんどの臓器がブドウ糖を使っていますが、何らかの原因でブドウ糖が使えないという場合は、脂質の分解産物を使います。ただ、脳だけは唯一ブドウ糖しか使わない臓器で、人体の中でもっとも多くのブドウ糖を使っています。
低血糖が起こると体はどうなるのでしょうか。
人体のほとんどの臓器がエネルギー不足になってしまします。特に脳はブドウ糖しか使いませんので、低血糖になると脳にとっては致命的です。そうなると人体は何とかこの低血糖から脱却しようとします。この仕組みは二重三重に備わっており、具体的には交感神経とホルモンがあります。この交感神経は自律神経のうちの一つですが、肝臓にはブドウ糖のもとであるグリコーゲンがたくさんあり、交感神経が興奮しますと肝臓がグリコーゲンを溶かしてブドウ糖に変え、血液の中に放出していきます。そうして血中のブドウ糖を元の量に増やそうとします。また、血糖を下げる働きのあるインスリンとは正反対の働きをするホルモンはたくさんあり、もし低血糖になると、これらのホルモンを総動員させて、インスリンの働きに打ち勝とうと頑張り、これも低血糖からの回復を早める一つの仕組みです。
低血糖のときには症状が出るんですか。
様々な症状があります。低血糖のときは交感神経が緊張し、これは血糖値を上げるためですが、これに伴った随伴症状が出現します。例えば、発汗、動悸、手の震えなどです。もう一つ脳が栄養不足になるための精神症状として、思考力が鈍り集中できない、字が読めない、しゃべりにくい、細かい作業ができない、計算がしにくい、眠気を感じるといったものがあります。これらの症状の影響として気分的な変動があり、イライラや緊張、怒りっぽくなる、不安、悲しい、こういった気分になりやすいです。このように低血糖症状は非常に多彩ですが、これらが同時にくるわけではありません。低血糖の程度や低血糖になっていくスピードによっても症状はいろいろあります。
私なんか、しょっちゅう眠たくなったり、イライラしたりしますが、低血糖なのかどうか区別がつきにくいということはありませんか。
確かに軽い低血糖の症状は区別がつきにくいかもしれません。山崎さんの場合は低血糖ではなく、普段からストレスが多いと思いますし、仕事の習慣による精神的なものがかなり入っていると思います。通常の方はまず低血糖にはなりません。低血糖が起きて困るというのは、糖尿病などで血糖値を下げる薬を使っている患者さんが薬の量が多すぎたり、薬をのむタイミングがちょっとずれて薬が効き過ぎてしまうことが多いです。普通の方でも食事でたくさんの量を一気に食べたり、どか食いや早食いが極端になると食後に低血糖を起こすということがよくあります。こういう食べ方をするとインスリンがどっと出て、その後じわじわとインスリンが効いて血糖値が下がるということがあるので、山崎さんの場合はこの可能性が少しあるかもしれません。それ以外の原因として、ごく稀ですが膵臓に特殊な腫瘍ができ、インスリンが血糖値とは関係なく勝手に出過ぎたりする病気もあります。この場合は症状の出方や検査で診断できるわけですが。
他に低血糖の症状で知っておかなければならない症状はありますか。
先に述べた症状は比較的軽いもので、これが血糖値が20を下回るような重症になったら一大事です。重症低血糖は、低血糖からの回復に他者の援助を必要とするもの。つまり、自分では対処できないような状態であるという定義があるのですが、具体的には意識がなくなったり、痙攣が起きたりして自分では対処出来ず、ほおっておくと死に至ります。当然、家族や職場の方がご本人の状態に気づいてすぐに対処してあげる必要があるわけです。もし低血糖が長引くと一命を取り留めたとしても、脳機能が障害されて昏睡状態が続いたり、一見認知症のような状態になることが多いです。
どう対処したらいいのですか。
意識があって自分で対処できるという方は、ブドウ糖を服用するのが一番よいです。糖尿病の治療をされている方は病院からブドウ糖が支給されていることが多いと思いますので、ぜひ利用していただいて、もしブドウ糖がなければブドウ糖を含むジュースを150~200cc程度飲んでいただくのもよいと思います。一番問題なのは意識がない場合です。これは周囲の人が通院先からきちんと指導を受けていれば、重症低血糖の時に使用するグルカゴン注射という注射薬があるのですが、これを受け取っている場合は筋肉注射をしてあげてください。ただ、これをもらっていない場合は、ブドウ糖を探して、患者さんの歯茎とほっぺの間に入れます。その上で救急車を呼んでいただきたいと思います。
低血糖は怖いものですね。糖尿病の方で薬を使っている方はこの可能性があると思わないといけませんね。
低血糖そのものは怖いかもしれませんが、糖尿病でより厳格に血糖値をコントロールしていくということをしますと、どうしても低血糖を引き起こしてしまうという傾向があります。だからと言って低血糖を避けるために血糖値を少し高めにキープしていくということをしていると、今度は高血糖が長引いて、糖尿病特有の合併症が先で出現してしまう可能性が出てきます。糖尿病治療はこういったジレンマに陥ることがよくあります。しかし、米国糖尿病学会による去年の臨床試験の結果では、重症の低血糖でも適切に対処すれば脳機能をまず起こさないということが証明されています。糖尿病治療で一番大切なのは、低血糖を恐れずよりよい血糖コントロールを目指すこと。万が一低血糖が起きたとしてもきちんと対処すれば大丈夫ですから、後遺症は残らないということを肝に銘じて、あくまで厳格なコントロールを目指していただきたいと思います。







