※武田病院グループが発行する「たけだ通信」記事からの転載です。医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。

頸動脈狭窄症の治療
康生会武田病院 脳神経外科部長 西原 毅
脳梗塞の原因として頚部内頸動脈狭窄症は生活習慣の変化と高齢化の進展に伴い近年増加傾向にあり、それに伴い診断や治療法も進歩してきています。また頸動脈病変による脳梗塞は外科的治療や血管内治療で予防が可能であり、内科的治療から外科的治療への変更時期が重要視されています。
適応
血管内治療を含めた外科的治療が必要かどうかは、脳虚血症状の有無すなわち症候性か無症候性かで適応が異なります。脳虚血症状とは一過性の麻痺や感覚障害、言語障害が一般的ですが自覚症状のないMRI上の無症候性脳梗塞や脳血流の低下による高次脳機能の低下を含めるべきと考えられています。症候性の場合、狭窄率が70%以上、塞栓症状を呈しているものでは50%以上の狭窄例で治療が必要と言われています。症状が出てからでは遅いのではという意見もあり、無症候性の場合でも狭窄率が60%以上の症例で手術が有効と言われていますが、周術期の合併症を3%以下に保つ必要があります。一般的には、無症候性の場合は、内科的治療で経過観察するのが適当と考えられています。
(1)頸動脈エコー
外来で手軽に行えるスクリーニング検査として頸動脈エコーがあります。特に冠状動脈病変を持つ例やいわゆるメタボリック症候群といわれる内臓脂肪の増加に高血糖や高血圧症、高脂血症を伴う例ではルーチン検査としてこの検査をすべきと考えられます。頸動脈エコー検査では狭窄率はarea stenosisとして表されるため治療が必要な狭窄率は症候性の場合75%以上、無症候性の場合90%以上となります。しかし、石灰化病変が含まれている場合は、エコー上の狭窄率は過大評価されるため、PSV(peak systolic velocity)が参考になります。150cm/s以上有れば高度狭窄が疑われ、120cm/s以上有れば3D-CTAで評価することが必要です。
(2)MRI/MRA
頭蓋内の虚血性病変の評価に用いられます。MRAは頭蓋内でも頸動脈でも血流を画像にしているため、狭窄率が過大に評価されます。参考にはなりますが、手術適応の決定には他の精度の良い検査が必要となります。
(3)3D-CTA
造影剤を用いる欠点があるものの、正確な狭窄率や病変の範囲、手術時に問題となる狭窄部位の高さ(第2頸椎中央部が手術の上限)、石灰化の有無と程度がわかります。
(4)SPECT
ラジオアイソトープを用いた脳血流検査です。
予防
頸動脈狭窄症は全身のアテローム硬化症の一部分症であり、末梢動脈や冠状動脈の狭窄に高い合併があることが知られています。(約10%)。頻度は男性の高齢者に高く、危険因子として高血圧、糖尿病、高脂血症(高LDL血症)、喫煙は重複することでさらに危険率が増加します。予防はこのような危険因子を取り除くことが第一でありますが、食事や運動でもコントロールできない場合はARB(アンギオテンシン=受容体拮抗薬)やスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)の有効性が示されています。血栓の生成を抑制する抗血小板療法は脳出血をはじめとする出血性イベントを増加させる副作用がありますが、脳梗塞の発生頻度がある程度抑制されます。一度狭窄した血管を拡張するのに有効性を示す薬は現在のところ有りませんが、頭蓋内血管に対してシロスタゾールの有効性が着目されており、将来は予防薬ではなく血管を再構築する治療薬が開発されるかもしれません。しかし、内服薬はそれぞれ副作用を持っており、食事や運動療法を強化するのが、狭窄の進行を止めるもっとも良い方法と考えられます。
治療法
外科的には内膜剥離術、血管内治療としてステント留置術が行われていますが、それぞれ利点欠点があり、個々の症例で検討すべきです。

(5)頸動脈内膜剥離術(CEA)
外科的に肥厚した内膜をプラークと共に取り除く方法です(図1)。当院で行っているCEAは全身麻酔下で、脳波モニターを行って深麻酔と低体温で脳保護を行った後、血管内膜の剥離を行います。ある程度剥離を行った後、血行を遮断し、プラークを完全に取り除きます。この方法で血行遮断時間は約30分以内で完了します。これまで内シャントを用いる事なく、脳虚血症状が生じた症例は経験していません。CEAの利点はプラークを完全に取り除き、手術中の塞栓物も血行遮断しているため少なく、脳虚血の合併症は低いことが挙げられます。しかし、手術操作により一過性に脳神経麻痺(嗄声、嚥下障害、舌下神経麻痺)を経験することがあります(1-2%)。また全身麻酔で行うため、85才以上の高齢者や多臓器に機能不全のある例では全身状態を悪化させる危険性があります。また狭窄部位が高位の例や、再手術、放射線治療後のものなどでは手術が困難なため、血管内治療の方が有利とされています。
(6)血管内ステント留置術(CAS)
カテーテルを通して、狭窄部位にステントを留置する方法です。道具と技術の進歩で合併症も少なく行えるようになっていますが、我が国では保険適応が認可されておらず保険適応外の治療となっています。当院では血管内専門医により治療し、入院期間はCEAが10日間に対して、CASが3日間と患者にとって負担の少なく高齢者や全身状態の悪い例にも行えます。特に手術では到達困難な高位症例や狭窄部位が長い場合はステントの方が適すると言われています。しかし、プラークが柔らかかったり泥状のものは血管拡張時にプラークが飛んで脳梗塞の原因になったり、多くは一過性ですがステント留置後、迷走神経反射により徐脈や血圧低下をきたしかえって脳血流が低下する例もあります。また全周性に石灰化のある狭窄例や狭窄部位にカテーテルが到達できない例ではステントによる血管拡張は困難です。







