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メディカルアドバイス

※武田病院グループが発行する「たけだ通信」記事からの転載です。医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。

医仁会武田総合病院 外科医長 北岡 昭宏

鼠径ヘルニア手術と日帰り手術

医仁会武田総合病院 外科医長 北岡 昭宏

小児の外科疾患のうちで、もっとも発生頻度が高いのは鼠径ヘルニアです。その成因は、胎生期に生じた腹膜のポケット状の飛び出しが閉鎖、退縮せずにのこってしまうことにあります。多くの場合は腹膜のポケットが小さく自然に閉鎖してしまいますが、腹膜のポケットが大きく残ったままになると、腸などがはいりこんでヘルニアが発症します。なぜ腹膜のポケットがのこってしまうのか、は明らかではありませんが、背景として遺伝的な因子の関係も報告されています。
自然治癒しない場合には手術が必要ですが。手術をいつ頃行うかの考え方は様々です。放置しておけば痛みや嵌頓などの症状が出現する可能性がありますので、ある程度早期の手術が望ましいとは言えるでしょう。しかし、小児の手術には全身麻酔が必要となりますので、呼吸機能が安定する6ヶ月以降が適当と考えられます。
手術法としては、ヘルニア嚢を根元付近で結紮する方法(高位結紮術)が行われます。この方法は下腹部の皺に沿った約2cmの切開で行うことができ、傷もあまり目立ちません。出血、感染などの合併症もほとんどなく、術後の傷の痛みも非常に軽く再発や後遺症もないので、安全確実な方法と言えるでしょう。

成人の鼠径ヘルニアの成因は小児の場合とやや異なります。成人では、加齢や腹部手術・外傷によって腸の脱出を押さえるべき下腹部の筋層が脆弱になった場合に鼠径ヘルニアが生じます。また、仕事やスポーツなどで過度に腹圧がかかる状況にある人でも下腹部の筋層が圧力を抑えられなくなった時に鼠径ヘルニアを生じることがあります。成人の鼠径ヘルニアは自然に治ることは、まずありません。放っておけば徐々に大きくなり、痛みや嵌頓などの症状が出現することもあります。ヘルニアを抑えるヘルニアバンドなども根本的な治療にはならず、手術による治療が必要です。
成人の鼠径ヘルニアに対して過去に行われてきた方法は種々ありますが、それらは主に筋層を縫合してヘルニアの原因となっている脆弱な部分を閉鎖・補強するものでした。しかし再発率が高いことが、大きな問題でした。
しかし近年、テンションフリーの考え方がなされるようになってからは手術法は大きく変わりました。テンションフリーの考え方とは、手術の際に筋層にかかる過度の緊張が再発を起こす原因となる、という考え方です。そこで、1990年頃からは、人工材料で脆弱な部分を覆って過度の緊張をかけずに補強を行う術式が広まってきました。そして現在ではテンションフリーの手術が主流になっています。
テンションフリーの術式にも種々の方法があります。メッシュプラグ法が最も多く行われていますが、PHS法がそれに続き、最近ではクーゲル法が広まってきています。さらにその他にもいくつかの方法があります。
メッシュプラグ法は筋層の前面に、クーゲル法は筋層の後面に、PHS法は筋層を前面と後面から挟み込むように人工材料を留置する、という違いがあります。それぞれに長所短所がありますが、基本的にはいずれの方法も術後の疼痛などの合併症が少なく、再発率も非常に低く(1%以下)なっています。 日帰り手術の種類 外科 : 腹腔鏡下胆嚢摘出術、ソケイヘルニア、痔核、乳腺腫瘤摘出 眼科 : 白内障 脳外科 : 手根管症候群 泌尿器科 : 腎結石ESWL、尿管狭窄手術 婦人科 : 不全流産手術、不妊症手術、子宮鏡検査・手術、腹腔鏡手術 形成外科 : 全身麻酔下小手術 図1 一方、1996年頃から、様々な手術に対してデイサージェリーが行われるようになってきました(図1)。

日帰り手術の種類
外科 : 腹腔鏡下胆嚢摘出術、ソケイヘルニア、痔核、乳腺腫瘤摘出
眼科 : 白内障
脳外科 : 手根管症候群
泌尿器科 : 腎結石ESWL、尿管狭窄手術
婦人科 : 不全流産手術、不妊症手術、子宮鏡検査・手術、腹腔鏡手術
形成外科 : 全身麻酔下小手術
図1

デイサージェリーとは日帰りで手術を行うことですが、術後24時間以内に退院する場合まで含まれるという考えもあります。デイサージェリーは患者・病院側双方に多くのメリットをもたらします。特に患者側は(1)早期に社会復帰可能となる(特に、多忙なひと、幼少児をもつ母親にとって)(2)本人の経済的負担が1~3割軽減される(3)家族負担(見舞いなど)が軽減される(4)手術に対する緊張・不安が軽減される(とくに、小児において)(5)院内感染の不安の解消、などのメリットが得られますので、患者様のニーズはますます高くなっています。デイサージェリーを行うにあたっての患者側の条件としましては、身体に大きな問題がないこと、本人が希望されていること、家族などのケアが得られること、自宅が近いこと、などがあります。また、病院側には、デイサージェリーに熟練した外科医および麻酔科医の存在が求められ、十分なインフォームドコンセント、バックアップ体制なども必要とされます。当科においては1998年から鼠径ヘルニア手術、胆嚢摘出術および痔核手術などに対してデイサージェリーを施行しており、その数は年々増加しています(図2)。

当科におけるデイサージェリーの推移
  98 99 00 01 02 03 04 05.6まで
腹腔鏡下胆摘 0 5 30 26 39 47 38 34 219
ヘルニア 8 29 38 47 36 48 61 24(63) 291(330)
痔核 1 13 12 41 37 20 19 14 157
9 47 80 114 112 115 118 72 667
図2

前述しましたように、現在の鼠径ヘルニア手術は術後の症状が非常に軽く早期に日常生活への復帰が可能です。従いまして、デイサージェリーの非常に良い対象となっています。当科においては、2005年6月までに行われたデイサージェリー667例のうち291例(43.6%)がヘルニア手術に対してのものです(図2)。


さらにその内容を見てみますと、小児の場合にはデイサージェリーの率は高く、最近では小児ヘルニア手術全例にデイサージェリーが行われています。成人の場合も徐々に増加してきており、最近では成人ヘルニア手術の約半数でデイサージェリーが実施されています(図3)。

  日帰り 総手術件数 日帰り率
腹腔鏡胆摘 38 206 18.4%
ヘルニア小児 21(20) 21(20) 100.0%
ヘルニア成人 40(63) 96(118) 41.7%(53.3%)
痔核 19 50 38.0%
図3            ( )内は2006年

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