※武田病院グループが発行する「たけだ通信」記事からの転載です。医師やスタッフの肩書き/氏名は掲載時点のものであり、現在は変わっている可能性があります。

お話と診察でわかる 脳・神経の病気
医仁会武田総合病院 顧問 柴崎 浩
私は今年の夏から医仁会武田総合病院の顧問として勤務させていただいています。これまで、国内4施設および国外3施設でそれぞれ素晴らしい先生方と一緒に仕事をさせていただく機会に恵まれましたので、その経験を活かして、地域医療ならびに臨床神経学の発展に少しでもお役に立てたらと願っています。どうぞよろしくお願いいたします。
ご存知のように、神経内科は脳・脊髄・末梢神経・筋(以下脳・神経系)の病気を対象としています。脳・神経系が傷害されますと、その傷害部位に相当して特別の症状(群)が出てきますので、その症状について詳しくお話をお聞きして診察させていただきますと、脳・神経系のなかでもどの部分にどのような病変があるかということを、かなり正確に推測することができます。
これは病変の大きさには関係なく、たとえば大事な神経組織が密に存在している脳幹では、豆粒ほどの小さな病変が生じても多彩な症状が出てまいります。また、病気の起こり方が急であればあるほど、症状が出やすい傾向があります。画像診断やその他の検査が著しく発達した今日でも、まず神経内科医に詳しくお話をしていただいて、診察を受けていただくことが、正しい臨床診断に到達する早道であります。
それは、たとえばある検査をして何らかの異常所見が見つかった場合でも、いま訴えておられる症状、あるいは困っておられるご不便が、その検査所見と直接関係しているかどうかは別問題であるからであります。また、明らかに脳のある部分に病変が存在することが想定されましても、病気の種類によっては、検査をしても何も見つからないこともあります。
ちなみに、いまある高齢者の方が片手に不便を感じるといって受診され、十分な診察を受けないで脳の画像検査を受けた結果何らかの異常所見が見つかったと仮定しましょう。しかし、詳しくお話を伺って診察をした結果、それは頚髄から出て手を調節している末梢神経の傷害に基づくことが考えられまして、頚椎のX線検査を受けて初めてその原因が見つかる場合があるわけであります。 従いまして、脳・神経系の症状ではないかとお考えでしたら、まず神経内科医の診察を受けられることをお勧めいたします。
一般に、脳・神経系の病気の診察には初診の場合30分から1時間の時間を要します。しかし、これは正に「急がば回れ」であります。
一方、診療機関としての立場からみますと、欧米では神経内科の専門医が診察しますと特別な診察料を請求することが可能でありますが、日本ではそのような制度が認められていません。しかし、多分来年から、神経内科専門医の診察に保険点数が認められることになる可能性が高いと伺っています。ただし、少なくとも当初は、日本神経学会認定教育施設に限ってそれが認められるものと思われます。
さらに、診療機関の立場からもう一つ大切なことは、症状と診察からある程度の自信をもって診断できる、真の意味の神経内科医を育てることであります。 以上をお読みいただきますと、画像診断を初めとする検査が全く不要かという疑問を抱かれる方も多いと思います。
ところが、実は全くその逆でありまして、各種検査は臨床診断を補助する意味できわめて重要であります。ただ、正確な臨床診断の上に立って検査を計画することによって、無用な検査が省かれるとともに、患者さんに余計な負担をかけないですみ、ひいては診療施設の効率も上がるものと考えられます。
ここで検査についてもう一つ非常に重要なことは、たとえば頭蓋内動脈瘤のように、全く無症状に経過して、突然破綻してくも膜下出血を来すまで気づかれない場合もありますし、あるいは、非常に大きな髄膜腫が頭蓋内にありましても、その進行が非常にゆっくりしている場合には全く無症状の場合があります。
そういった意味では、定期健診の中に神経系の画像検査を含めることはきわめて意義があることは間違いない事実であります。
脳・神経系の病気は診断がついても治り難いものが多いといわれます。そういった意味で、将来の重要な課題の一つは、いったん傷害された脳・神経系の機能をいかにして回復させるかということであります。これは、現在の神経科学研究の中でも最も大きな関心事であります脳の可塑性(環境変化や学習によって脳の機能と構造がダイナミックに再構築される現象)と関連した問題であります。
もう一つは、病気が起こる前にいかにしてそれを予防するかに向けての試みであります。私はつい最近赴任したばかりでありますが、武田病院グループはすでにその両方向に目標を掲げておられることを目の当たりにいたしまして、敬服と信頼の念を強くしている次第であります。

今年の5月まで滞在した米国NIH(NINDS)の
研究室で私の帰国を記念して撮影された写真。
前列左から2人目が私、その右が研究室部長で
私の長年の友人のマーク・ハレット博士。
ハレット博士による英文俳句。
「Red,Yellow,Orange Fall is a Beautiful
Time for More Successes」
- 1964年 九州大学医学部卒業
- 1965年 在日米陸軍病院インターン修了
- 1969年 九州大学大学院医学研究科修了
- 米国ミネソタ大学神経内科レジデント開始
- 1972年 九州大学神経内科助手就任
- 1978年 英国ロンドン国立神経研究所(クィーンスクェア) 客員研究員就任
- 1980年 九州大学神経内科講師昇格
- 1981年 佐賀医科大学内科助教授(神経・筋部門主任)就任
- 1988年 国立精神神経センター・神経研究所疾病研究4部 部長就任
- 1990年 京都大学医学部脳病態生理学(後に臨床脳生理学)教授就任
- 1999年 同神経内科教授兼任
- 2000年 同高次脳機能総合研究センターセンター長兼任
- 2001年 日本臨床神経生理学会理事長就任
- 2003年 京都大学退官(名誉教授)、米国NIH(NINDS)客員教授就任
- 2004年 国際運動障害学会名誉会員
- 2005年 6月 現職
日本神経学会名誉会員 - 2006年 国際臨床神経生理学会連合・理事長就任予定







