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医仁会 武田総合病院 脳神経外科 部長 川西 昌浩 |
| ■ 2004年1月8日(木)放送 | ||
「背骨の骨折に対するセメント治療」 |
Q.|背骨の骨折にセメントを入れる治療方法があるそうですが、利用者は増えているのですか
A.|まだ標準的な医療行為にはなっていませんが、一部の医療機関で行われています。
Q.|背骨の骨折というと大けがというイメージがあって、そう頻繁に起こるものではないと思うのですが
A.|いえ、70歳代では3割の方に日常的にみられる多い病気で、専門的には「圧迫骨折」と言います。骨折すると非常に強い痛みが生じ、この痛みが長引き困られる患者さまが多いのです。高齢で「腰が痛い」とおっしゃる方の中には、気付かないうちに圧迫骨折を起こしている方がかなりおられます。今日ご紹介する治療法は、これまで顔など他の部位に使っていた医療用の柔らかいセメントを針で骨折した背骨に注入して腰痛を取るという最先端の治療です。患者さまには「セメント治療」と説明しています。
Q.|背骨はどうして骨折するのですか
A.|年を取ると骨の中身が減ってスカスカになる状態、「骨粗しょう症」になります。背骨を段ボール箱に例えると、若い時は中に荷物がたくさん詰まった段ボール箱が積み上げられた状態ですが、年を取る(骨粗しょう症になる)と箱の中身が少なくなり、上から重い物を載せるとグシャっと潰れてしまいます。これと同じ理屈で、尻もちをついたり、荷物を中腰で持つという普通の動作で簡単に背骨を骨折してしまうのです。セメント治療は、壊れた段ボールの中にセメントを入れて箱を丈夫にする治療です。
Q.|背骨を骨折するとどんな症状が出るのですか
A.|一番多い症状は、背中や腰の強い痛みですが、ひどくなると歩けなくなったり、寝返りがうてなくなる人もいらっしゃいます。高齢者では数日間寝ているだけで、あっという間に足腰が弱くなったり、痛みのために咳払いや大声で話すことを嫌がり、肺炎やボケ症状の原因となることもあります。多くは1カ月以内に痛みが軽減されるのですが、時に数カ月〜1年経っても痛みが取れず、慢性的な腰痛に苦しむ方もたくさんいらっしゃいます。
Q.|背骨の骨折は一般的にどのような治療が行われるのでしょうか
A.|これまでは、鎮痛剤の投与や安静、コルセットの使用などが一般的な治療だったのですが、これではなかなか痛みが取れないケースが多かったのです。
Q.|これに対してセメント治療はどう違うのですか
A.|最新のレントゲンやCTを利用して、骨折した背骨に針を刺して、そこから医療用のセメントをほんの2、3cc注入すると痛みを取ることができ、効果は永久的です。
Q.|柔らかいセメントは骨の中でどうなるのですか
A.|10分後には固まってしまい、他の骨にも影響はまったくありません。この治療では部分麻酔で切らずにできるので患者さまの負担は軽く、患者さまに「動かないでくださいね」などと話をしながら30〜40分ほどで終わってしまいます。治療後の安静なども不要で、早くから立ったり歩いたりできるため寝たきり防止にもなります。先日セメント治療を行った86歳の女性の場合、治療前は猛烈な痛みで小声でしか話せず、自分で寝返りもうてなくなり、痴ほう症状もある、ほとんど寝たきりの状態でしたが、セメントを入れたとたんに痛みが消え、自分で歩けるようになりました。ボケ症状もなくなり同室の人と大声で談笑される姿はまったく別人のようで、治療したわれわれがびっくりするくらいの回復ぶりです。
Q.|セメント治療で腰痛が完全になくなるのですか
A.|次の日にはほぼ確実に、骨から来る痛みは消え、効果は永続します。ただし、骨粗しょう症は全身の骨に生じている現象ですので、骨粗しょう症の治療を続ける必要があります。最近、骨粗しょう症に対する良い薬が出ていますので、これらの薬を服用したり、注射したりすることも大事です。
Q.|セメント治療に伴う副作用や合併症がありますか
A.|可能性は低いのですが、骨セメントに対するアレルギーが生じる場合があります。また骨セメントが脊椎以外に漏れ出た場合は肺の血管が詰まったり、神経が痛む可能性がありますが、当院では最先端のCTなどを利用して二重三重の防止策をとっています。当院でこれまで合併症を生じたことはありません。
Q.|入院期間、費用はどれくらいになりますか
A.|圧迫骨折の原因、症状、病変部の状態などによって個人差はありますが、歩いて入院された方は、日帰りで治療が可能です。費用は28万円程度です。
Q.|セメント治療は最近行われるようになったのですか
A.|欧米では15年以上の歴史があり、有効性は証明されています。現在、日本においてはどこでも行われている治療ではありませんが、背骨の骨折による痛みで苦しむ患者さまの福音となれば幸いです。