
宇治武田病院
外科 副院長
門田 一宣 |
胃癌について
胃癌で胃を切除する場合、癌の場所、大きさ、進み具合によりその範囲は変わってきます。一般的に胃の出口(「幽門」といいます)に近い場所にできた場合は胃の入り口(「噴門」といいます)に近いほうを三分の一から四分の一残して手術をします。これを「幽門側胃切除術」といいます。これに対して噴門に近い場所にできたものや胃の広範囲にわたる癌の場合には胃を全部取る手術が必要になってきます。これを「胃全摘術」といいます。胃癌の手術の場合、胃だけでなく周囲のリンパ節を一緒に取ります。これに加えて癌の広がりや進み具合に応じて周囲の臓器も合併して取る場合があります。特に胃全摘の場合は脾臓や時には膵臓の一部や大腸の切除が必要になることがあります。これらは癌をすべて取りきる為に必要な手段です。あなたの場合も根治のためには、胃を全部取る必要があると説明されたのでしょう。
胃の働きとは
ところで胃の働きとは、何でしょうか。よく胃で消化も吸収も行っていると考えている方がおられますが、そうではありません。胃の働きとは食べたものを胃酸と消化酵素を含む胃液で粥状にこなして、小腸へ送り込むことです。つまり、食べ物の一時的貯蔵庫であり、消化吸収のための下ごしらえをして少しずつ十二指腸に送り込む働きをする場所なのです。そうして小腸に送り込まれた食べ物塊はさらに胆汁や膵液で細かく消化されて、4〜5mあるといわれている小腸から吸収されるのです。このことから考えると胃がなくなるということは食べ物を細かくこなすという力がなくなるということです。従って、咀嚼すなわち口でよく噛み、唾液とよく混ぜ合わせて食べるという習慣が今まで以上にとても大事になってきます。胃のないぶん、お腹をいたわってゆっくり食べるようにしてください。ついつい、手術をしたことを忘れて術前のように丸呑みしたり、あまり噛まずに飲み込んだりすると苦しくなることがあります。特にキノコ、海草、こんにゃく、たけのこなどは腸に詰まって腸閉塞を起こすことがあります。ただしこれらもよく噛んであるいは細かく切って食べれば大丈夫です。つまり胃を全部とっても何でも食べられるということですが、食べ方だけには十分注意してください。
手術の方法
ヒトの内臓の中で正常の肝臓のように一部切除しても再生してくるものもありますが、胃の場合はとってしまった場合、新しく胃ができてくるということはありません。普通は胃のあったところに小腸を切って持ち上げて、食道とつなぎ食べ物が通る道を作ってやります。小腸は読んで字のごとく胃に比べて小さく細いのでどうしても一度にたくさんの食べ物を貯めておくことができません。従って、一回の食べる量を少なくして回数を増やすようにする必要があります。これではやはり生活の質(QOL)が低下します。最近では少しでも食事がたくさん食べられるようにさまざまな工夫がされています。そのひとつに小腸を袋状に広げたもの(パウチといいます)と食道とつなぐ手術方法があります。道具の進歩により、縫合と離断を一度にできる自動縫合器という便利な機械ができ、これを用いて比較的簡単にパウチができます。当院の外科でもこの手術方法を以前より取り入れており、患者さんの多くは食事がたくさん食べられているようです。手術操作はやや煩雑になりますが、慣れたスタッフで行っているため手術時間はそれほど変わりません。高齢者の方にも安全に行えます。ただ、この方法以外にも再建の方法には様々なやり方があり施設により得意な再建方法が異なりますので担当医に詳しくお聞きになるのがよいと思います。
手術後に注意すること
術後の注意点としてはダンピング症候群という後遺症が起こることがあるということです。これは食べ物が一度に急に腸の中に流れ込むために起こる症状です。食後30分以内に起こる動悸、発汗、脈が速くなる、といった早期ダンピングや食後2〜3時間で起こるめまい、脱力感、発汗などの低血糖による後期ダンピングがあります。噴門という逆流防止機能がなくなるため、苦いものが上がり胸やけなどの症状が起こることもあります。これを逆流性食道炎といいます。内服薬を飲んだり、上半身を少し高めにして休んだりといったことが必要となることがあります。また体重を非常に気にする方がおられますが胃の手術を受けた方の大部分は術前の10%程度減ります。元に戻すように無理をするのではなくバランスよく栄養価の高いものをよく噛んで食べて良好な体調を維持していくことが重要です。
最後に
術後の回復のスピードは人さまざまです。いいときもあれば悪いときもありますが、長い目で見れば必ず上向いていきます。
あせらずに、自分のお腹と対話しながら食事を楽しむという気持ちを持って回復に努めましょう。
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