タバコとお酒
●健康日本21
厚生省(現厚生労働省)は1999年、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」と題する政策課題を策定しました。
その目的は「壮年期死亡の減少」および「健康寿命の延伸」とされ、運動期間は2010年までの10年間で、2005年には中間評価を行うことが決められています。
そして、運動の基本方針として
(1)一次予防の重視、
(2)支援環境の整備、
(3)目標設定と評価、
(4)連携運動の推進
が示されています。
そして、具体的な目標として、
(1)栄養・食生活、
(2)身体活動・運動、
(3)休養・心の健康づくり、
(4)タバコ、
(5)アルコール、
(6)循環器病、
(7)がん
を掲げ、それぞれの改善の到達目標が明示されているのです。
即ち、今後10年間の国策として、全国規模の一次予防の具体化運動が展開されることになります。

これは従来の集団検診や健康診断を柱とする病気の早期発見や、或いは発病後の重症化防止といった二次・三次予防を遡って、発病そのものを食い止める一次予防、つまり生活習慣改善を実行する決意の表明に他なりません。こうして、わが国の医療環境は介護保険の発動と相俟って今後一層の民生化へとシフトすることになります。

こうした背景の下で、今回の施策にもタバコとアルコールの弊害が具体的に例示され、その節減が求められています。
しかし、実際にはなかなか実行されないのが現実なのです。その原因のひとつとして、これまでタバコとアルコールの有害性のみが喧伝された反面、それらの傷害作用の具体的な説明が不足していたという点を指摘しなければならないと思います。

タバコの害
紙巻タバコ一本にはニコチン10mgが含まれています。
これを喫煙するとその1〜2mgが肺に入り、10秒で脳に達します。致死量は40mgです。少量では迷走神経を興奮させ、大量では麻痺します。
その複雑な薬理作用はアドレナリン分泌をも促し、心臓・血管系に有害に作用します。血圧を上昇させる筈ですが実際には下降させるというデータがあります。
これは一種の心不全状態の表われと説明されています。消化管に対しては十二指腸から胃への胆汁・膵液の逆流を生じ、その結果粘膜バリアが破壊されて胃粘膜障害を誘発します。
また同時に、胃から食道への胃液の逆流をも誘発し、食道炎によるむねやけを自覚するようになります。更に、膵消化液の分泌は抑制され、食物の消化が阻害されます。
禁煙した人の体重が急に増えるのは、間食の故ばかりでなく、膵消化液の分泌が回復するためでもあるのです。

また案外知られていない現象ですが、「タバコ弱視」という視力低下が認められています。

このほか、最も恐ろしいのは吸引・嚥下されたタールの作用です。
タールに含まれるベンツピレンは有名な発癌物質です。厚生省が示したアメリカのデータでは、喉腔咽頭がんや肺がんの発生率はそれぞれ非喫煙者の20数倍に達しています。
食道がんのそれは10倍に及んでいます。実に恐ろしいことです。

これに加えて、吸引された煙には大量の一酸化炭素COが含まれています。
これは血液中のヘモグロビンと結合してメトヘモグロビンを生成し、組織貧血を誘発します。前述のニコチン作用と相俟って、喫煙女性の早・流産の原因の一つとなっています。

このように有害な喫煙による自損行為は別としても、さらに決して無視できない加害現象として副流煙の問題があります。
喫煙時に派生する副流煙の方が、先述の有害物質をより多量に含有するというデータが示されています。間接喫煙の被害は目に見えぬ形で職場や家庭内に拡散しているのです。
タバコは百害あって一利なしです。

アルコールの害
アルコールは胃から直接吸収される数少ない物質です。その90%は胃から吸収されるというデータがあります。
これに反して、水をはじめ殆どの物質は胃からは吸収されず、腸に入って初めて吸収されるのです。そしてこのタイミングのズレが、アルコールを高濃度のまま肝臓へと直行させる原動力となっています。この結果、肝細胞は破壊されてアルコール性肝炎、脂肪肝、さらにアルコール性肝硬変へと進展することになります。

また別に、アルコールには胃粘膜障害作用があります。濃度8%以上では胃粘膜バリアが破壊されてびらんや潰瘍などを発症します。
それではアルコール濃度の低いビールなら大丈夫かというと、なるほどバリアには作用しませんが、発泡炭酸ガスが胃袋を過伸展させる結果、胃酸分泌が亢進します。
そして酸による粘膜障害を発症することになります。いずれにしても空腹にぐい呑みのアルコールは良くありません。
加えて最も恐ろしい合併症はマロリーワイス症候群です。
これは飲酒者によく見かける嘔吐によって食道下部に深い裂傷が生じ、急激に大量の吐下血を来す疾患です。吐くまで呑んではいけないと言うことです。

このほかアルコール多飲者に発現する病気には、アルコール性膵炎、アルコール性心筋症、アルコール性弱視やコルサコフ精神病などがあります。アルコールの適量とは日本酒で1合、ビールなら中ビン1本、ウイスキーはダブル60cc、ワインは2杯弱といったところです。
・日本酒=1合
・ウイスキー=ダブル60cc
・ワイン=2杯弱
・ビール=中瓶1本


これからの日本は「健康日本21」の国策が具体化して分煙・断煙・節酒が強化されることでしょう。今回の解説が少しでもお役に立てば幸いです。

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